「やりたいことができない」という発言をする若手技術者
鵜呑みせず心理見極め
3年目までの若手技術者が「今の職場ではやりたいことができない」と発言する場面に直面することはないでしょうか。稀に本当にやりたいことと入社した企業の方針が大きくずれている場合、若手技術者が発言通りの心理状況になっている可能性もあります。しかしながら多くの場合、やりたいことができないという言葉を鵜呑みにしてはいけないケースがあります。
■自信を失っている場合は、小さな成果を積み重ねるチャンスを与える
経験上最も多い若手技術者の心理は、「今の状況から逃げたい」というケースです。理由は色々です。自分の未熟さに気がつき、自信を失っている。目の前の仕事が雑用にしか見えず、やる気が出ない。多くの場合、上記の2点のどちらかに当てはまるケースが多いと感じています。それぞれどのように対応すればいいのでしょうか。
自信を取り戻すには小さな成果を積み重ねるしかありません。言葉で褒めても本当の意味での自信は戻ってきません。難易度が低い、または短期の仕事を任せてやらせてみることです。そしてこれらの仕事が何らかの形で次の仕事につながっている、という事実を感じてもらうことが、「自分の行った仕事が形になった」という実感となり、自信を取り戻すきっかけとなります。
精神状況的により追い詰められている場合は仕事を休むというのも一つの選択肢です。いずれにしても、無理せず、少しずつでも小さな成果を積み上げるという地道な作業が必要となります。
ここで一番やってはいけないのが、「疎外感を与える」ということです。打ち合わせに出席させない、各種業務を進めるときに声をかけない、という「戦力外の印象を与える言動」は追い打ちをかけてしまいます。
指導者層の方々が本音としてこのような動きをしてしまう、ということは人情的には理解できることですが、一度この言動を表に出すと若手技術者は一生不信感を持ち続けることになります。不信感を一度持たれてしまうとそれを払しょくするのには長い時間がかかること、そして若手技術者の成長を促す指導伝達効率が大幅に低下するという悪影響が多大になることを理解しておくことが重要です。
■仕事を雑用に感じている場合は、専門性が必要な仕事をやってもらう
成果を焦っている若手技術者の中には目の前の仕事の多くを雑用とみなしてしまう傾向があります。行っている仕事が自分の成長につながっているのかわからない、そして組織に貢献できているのかわからない、そのような考えが深層心理としてあるようです。仕事をやらせる指導者層としては、雑用の積み重ねが大切な成果につながるということはもちろん、大きな仕事を任せられるのか否かを見極めるために雑用的な仕事を任せてアウトプットを見極めようとしていると思います。このような指導者層の考えは得てして若手には伝わらず、雑用には価値が無いという考えになってしまうようです。
このような場合、専門性の必要な仕事を任せるということが一案です。専門性といってもそれほど難しいことを任せる必要はありません。若手技術者が自分で「これが自分の専門だ」と意識している専門に関連する仕事を少しやってもらうだけで状況は変わります。仕事は見方によっては雑用でも構いません。しかし、専門性が活かされていると感じる雑用であれば、それはもはや雑用ではなく若手技術者にとっては「専門性の必要な仕事」へと変化します。
具体例としては、ある情報の調査を依頼するというのは定石です。若手技術者の専門性に近い領域のことについて、最新の学術動向、産業動向といったものを調査してほしい、というので十分です。場合によっては企業にとってすぐに役に立つ仕事ではないかもしれませんが、若手技術者のモチベーションを高める役割を果たせるのであれば、それは極めて価値の高い仕事となるはずです。
いかがでしたでしょうか。やりたいことができないという言葉の裏に隠された若手技術者の本音とその対策を見極める一助となれば幸いです。
◆吉田 州一郎(よしだ しゅういちろう)
技術者育成研究所所長・FRPコンサルタント。入社2~3年目までの製造業に従事する若手技術者に特化した法人向け人材育成プログラムを提供し、自ら課題を見つけそれを解決できる技術者育成サポートを行う。
東京工業大学工学部高分子工学科卒業後、ドイツにある研究機関Fraunhofer Instituteでの1年間のインターンシップを経て同大学大学院修士課程修了。世界的な展示会での発明賞受賞、海外科学誌に論文を掲載させるなど研究開発最前線で業務に邁進する一方、後身の指導を通じて活字を基本とした独自の技術者人材育成法を確立。その後、技術者人材育成に悩みを抱えていた事業部から、多くの自発的課題発見/解決型の技術者を輩出した。
主な著書に『技術報告書 書き方の鉄則』、『CFRP~製品応用・実用化に向けた技術と実際~』(共著)など。