ディーラーヘルプを 考える 黒川想介 (19)

互いの信頼関係構築
根幹理解した研修を

営業とスポーツは似ているところが多い。その最たるところは、営業もスポーツも知識を詰め込むだけではうまくならず、実践を通してうまくなっていくことである。だから他の仕事に比べ年季を入れなければならない。

販売店ではメーカーの研修があれば、極力、販売員を参加させる。商品をよく知れば営業がうまくいくと思うからである。事実は商品知識が増えるから役に立つのではなく、メーカー研修の良いところは、商品に関する技術用語の理解が深まるために、顧客の話についていくことができる点である。

したがってメーカー研修を受けて戻ってきた販売員が、そのメーカーの商品売り上げをいきなり増やせるわけではない。

日本の産業界の高度成長期には、確かにメーカー研修を受けて戻った販売員は、そのメーカーの商品売り上げを伸ばすことが多かった。現状とはどこが違うのか。

違いの①は、市場は成長していたし、情報化時代ではなかったため、営業の持ち込む情報は、結構、顧客の役に立った。販売員が研修で学んだことを現場に戻って実際にやってみると、顧客は反応した。すぐに使用しなくても、他に手掛ける仕事のヒントになることも多かった。

現状はどうかと言えば、顧客は必要なとき必要な商品をネット検索すればいいし、検索したサイトにはヒントになることも多々載っている。だから研修で学んだ商品の紹介をしても、反応がないことが多い。

また、研修では商品がどのような現場でどのように使われるかを教えているが、実際には顧客は既に知っていることだし、実施していることが多い。だから反応が悪い。それに昨今のシリーズ化されて出てくる新商品の多くは、顧客が欲しかったというよりは、競合メーカーをにらんだ新商品が圧倒的に多い。市場が成熟している証しである。

話の通じる顧客には研修で学んだことを話せば聞いてもらえるが、話の通じない技術者には反応のない怖さを感じてしまう。それでは顧客である技術者との会話が弾まないから、商品研修による営業スキルの向上は、以前に比べると期待はできない。

違いの②は、当時のメーカー研修が販売店にとって役に立ったことの他に、メーカー研修から帰ってきた販売員がメーカーに親近感を持った点である。

当時のメーカー研修では、商品の基礎的部分はもちろんのこと、電気用語などもわかりやすく解説していたし、その他にも営業の基本的なことを教えていた。だから販売員を自社で教育するより、メーカー研修に出した方が手っ取り早かった。

それにメーカー研修では、商品に関する知識だけでなく、販売員をファンにするような工夫をしていた。メーカーの工場で研修し、工場見学や実習を入れたり、工場で働く人たちとの懇談会や一緒の食事会を通して互いにわかり合えるようなことを行ったりしていた。

現在は研修センターは別にある。工場が研修地であっても、商品知識や使い方を中心に教えている。特に競合商品との優位点をわかってくれれば、売ってもらえると思っているようだ。工場見学はあっても、自社を好きになってもらいたいというよりは、先端的なつくり方をしている工場を見てくださいというような事務的な見学会となっている。

メーカーの研修はディーラーヘルプの一環である。ディーラーヘルプというのは、メーカーが単に販売店を援助することではない。メーカーと販売店が一つの組織体として機能することである。

ディーラーヘルプの根幹には、互いの信頼関係構築と販売戦力向上が必要だ。メーカーの研修から現場に戻った販売員が積極的に拡販活動をするには、ディーラーヘルプの根幹を理解した研修にすべきだろう。

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