ディーラーヘルプを 考える 黒川想介 (21)

普遍的根本と変容可能な流動性 混同しない見極め肝要

伝統とは前の時代から受け継いだ制度・風俗・思想などであると辞書にはあるが、スポーツ界で伝統校と言えば、競技に強いチームという印象を与える。老舗とは先祖代々の商売を守っている古い店と辞書にあるが、世間では老舗だから信用できるし、老舗だから多少高価格でも当たり前と認める。

伝統校にしても老舗にしても構成する組織の人々が組織の変わらない根本的な考え方を持って、時代時代の業界や社会に合った活動や運営をしてきた。その結果として長期戦を制してきたのだから、古くさいものとして一蹴することはできない。

その組織にとって変わってはいけない根本的なものと時代に合わせて変わっていかねばならないことを混同してしまうと長期戦は戦えず、短期決戦という視野の中での戦いに陥る。状況に応じ対症療法的に短期決戦で勝利を続けていくうちに、その組織の変わってはならない根幹から少しずつずれていく。状況に応じて新しさを追いかけたつもりでも、渦中にいるといつの間にか、変えてはならない根幹とは似て非なる組織に変質してしまっても気づかないことがある。

メーカーと販売店との関係は、販売する商品を通してつながっている。メーカーはこのつながりを強くするためにディーラーヘルプという考え方を採用して施策に反映させてきた。それらの施策が結晶となって現在も行われているものもあれば、時代とともになくなっているものもある。

元来、販売店はメーカーとユーザ間の橋渡しをする中間業者であった。現在でもその役割は変わっていない。中間業者の中でメーカーと販売契約を結んだ販売店は契約メーカー商品の橋渡しをするだけでなく、一部メーカーの代理機能を持つことになった。

契約販売店とメーカーの関係には歴史がある。歴史の重みに拘泥する必要はないが、深く理解した上で契約販売店とメーカー間にあるディーラーヘルプを考える必要がある。かつて業界の高度成長期には、メーカーの営業は次々と出てくる商品を担いで市場開拓に率先垂範で動き回った。販売店営業は後方処理で忙しかったが、メーカー営業に引っ張られ市場開拓にも励んだ。そのため販売店営業では、積極的に商品技術・電気用語・使い方を学ばねばという気持ちが強くなった。

その頃の販売店営業は、メーカーの代理機能を持っているんだという自負をもつことができた。メーカー営業でも拡大する市場や現場を肌で感じ、販売店の役割が大事であることを悟った。お互いがお互いを真に認めていたその時期にディーラーヘルプの骨格がつくられた。社会のインフラや生産設備が拡大していた工業化社会のただ中にあったため、業界に勢いがあった。

勢いのある時はいろいろなことが自然と発生するものである。ディーラーヘルプの活動も、メーカーが販売店を支援するという現在の認識の範囲にとどまっていなかった。そんな勢いのある市場の中で、メーカー営業では販売戦闘力の最小単位である課や営業所のレベルで自立的に販売店を巻き込んだ独自の営業活動を始めていた。

その時のディーラーヘルプ活動は現在実施されている販売店支援の範囲にとどまらず、バーチャル的な組織にまで高めて、チームとして機能していた面があった。うまく機能していたため、当時のディーラーヘルプの形態はメーカー営業戦略上の重要な位置になった。

現在は情報化社会に入っていろいろなことが変わってきた。メーカーと販売店の関係も例外なく変わってきている。それでも変わるべきでない根本的なことはある。その上で変化する市場や顧客に合うようなディーラーヘルプ組織体にしていくことが肝要となる。

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