ディーラーヘルプを 考える 黒川想介 (23)

伝わりにくくなった最前線情報 マーケティング部試練

企業が成長していくには、マーケティング活動はとても重要である。

日本の社会の成長期には、いろいろなことが拡大という方向を目指してきた。消費者は製品を欲しがり、製造業は製品という価値をつくり、販売は製造業でつくられた製品を欲しがっている潜在的消費者に売り込んだ。

一般消費財のマーケティングは、欧米から渡ってきた「4P」というフレームワークを用いて早くから始まった。どんな品質で、いくらの価格で、どんな販売チャネルを用いるのか、どんな広告宣伝をするか、という英語のプロダクト・プライス・プレイス・プロモーションの頭文字をとって「4P」というフレームワークを用いたマーケティングであった。

つまり、製品ありきから始まるマーケティングであった。これはまさに、消費者はとりあえず製品を欲しがっているという前提に立っていた。

やがて時代が下るにつれ、消費者のマインドは成熟し、欲求の多様化が進んだ。一方、メーカーの発売する製品は、消費者にとってはコモディティ化してきた。製品そのものの価値では消費者に満足を与えられなくなった。

そこで、1970年代後半頃から消費者の満足を目的としたマーケティングに変わってきた。これは4Pのように市場拡大を前提とした戦術的なものではなく、まず市場を細分化し、どの市場向けの製品を出すかというターゲットを決め、自社の強み弱みを分析した上で、その市場におけるポジションを定めるという戦略的なものであった。

このような戦略的マーケティングは、セグメンテーション・ターゲッティング・ポジショニングの頭文字をとって「STP」というフレームワークを用いたものだった。

以上のような一般消費財のマーケティングに対して、電機部品や機器業界では、マーケティング営業は10年くらい遅れて始まっている。

やはりこの業界でも、市場は拡大するものという前提であった。営業は①新規顧客開拓②次々に出てくる新製品を顧客に売り込む③商品の新しい用途を発見する、という三新運動を頻繁に実施した。この活動の成果は、後方にいる生産部門に直接伝わった。

当時は、新商品創出や販促のような活動は営業が主体的に行っていた。やがて、部品や機器の市場は膨大に広がり、生産設備は高度化し複雑になったため、営業では単純に捉えきれなくなった。営業に代わって事業企画などのスタッフ部門が市場情報を収集、販促力を駆使しマーケティングを主管するようになった。

90年代に入って、部品や機器市場は拡大から成熟安定へと移った。その結果、国内の大競争が始まった。メーカー同士の競合が激しくなって、メーカー営業も販売店営業も、商品力を武器にして力で売り込む白兵戦強化へと向かった。

元来、営業は新商品が好きである。新商品は需要をつくり出してきたから、新商品は営業を元気にした。その新商品創出に一役買っていた三新運動を、営業はすっかり忘れてしまった。

新商品創出はマーケティング部が主管し、営業は意見具申に回ったことも関係していたのかもしれない。マーケティング部は独自の情報収集を行い、営業が市場で有利に戦えるように、競合を意識し、ひと味違った新商品を出し続けてきた。営業もマーケティング部もおのおのの専門化が進むほどに両者の壁は高くなり、全体最適から遠のくのは世の常である。

その上、市場の最前線にいる販売店営業では、売り上げが思うように上がらなくなっていることもあって、かつてのようなメーカー営業との意思疎通がなくなっている。そのためマーケティング部には最前線の生々しい情報や雰囲気は伝わりにくくなった。その辺のことを勘案して、ディーラーヘルプ活動の活性化を考えることが重要になっている。

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