■米国の破壊的イノベーションと周回遅れの日本のFA業界
米国視察からの気づき
11月7日から10日間に渡り、当社主催の『国際交流視察』が行われた。参加企業は日本より12社13人。マレーシアや米国からの参加者も加え、総勢20人を超えた。当社の社歴は4年と浅く、名実ともに駆け出しのベンチャー企業であるが、当社主催の国際交流視察は、お陰様で第3回目を迎え、年を追うごとに盛大になっている。参加者は中小製造業の社長・代表者であり、インダストリー4.0やIoTの国際社会での実態を肌感覚で学ぶことが目的のツアーである。
ツアーの中味は、現地の産学官の著名人を招聘したセミナー参加や、現地企業の視察、国際見本市Fabtecの視察である。今年の視察地は米国シカゴ・ロスアンゼルス、サンフランシスコ、サンノゼを回る強行軍であった。
ツアーは、シカゴで開催されたFabtecの視察から始まった。Fabtecは、板金加工を中心とする大規模な国際見本市であり、2年毎に米シカゴで開催される。Fabtecでは、歴史的に米国メーカーの存在感は薄く、日本と欧州のメーカーが強さを示している。遠く昔の20世紀には大いに幅を利かせていたご当地米国のメーカーは、この数十年間ずっと影を潜めている。ブース規模やプレゼン訴求力・集客力など全てに渡って日・欧が頂点に立ち、日本と欧州のトップメーカー同士が、一位・二位を争っているのが恒例である。
今年の傾向でも、日・欧メーカーの存在が大きい事に変わりはないが、特筆すべきは米国と新興国の躍進である。米国メーカーは、人工知能搭載による機械の知能化とロボット化が急速に進化し、ツアーに参加した中小製造業経営者は、意外性を持って率直に驚き、そして強い興味を覚えたようである。
一方で、新興国の躍進といえば一般的に中国メーカーを思い浮かべるが、中国メーカーは米国の板金市場からすっかり姿を消してしまった。新興国躍進の担い手はトルコのメーカーである。日・欧のトップメーカーが苦手な超大型機もラインナップし、トルコの主要3社がそろって躍進しており、展示ブースも存在感を放っていた。
価格破壊の挑戦を挑んでいるのは、米国メーカーである。レーザー加工機などは、日欧メーカーの半額以下を打ち出し、米国メーカーはモジュール型の製造手法による価格破壊を戦略の前面に打ち出してきた。この価格戦略が成功したら、レーザー加工機など工作機械まで、家電製品やパソコンのように日本を苦境に陥れる事も懸念される。このように米国では、大きな時代の変化が起きているが、これを日本で知る事は難しい。特に、中小製造業にとって至難の技である。世間では「IoT」が叫ばれ、日本の大手企業からもさまざまな提案が出ているが、中小製造業にとって『茹でカエル』にならないためにも『世界の情報を知る事』がとても重要であると痛感した。
Uber(ウーバー)体験談から知る日本との温度差
Uberを聞いたことがある方は多いと思うが、日本人にとってUberは無縁の存在である。Uberを知っていても、『Uberは白タクだし、タクシーのほうが安全だ』と言った認識から、せっかく海外に行ってもUberを実際に使う人は少ない。日本では国土交通省がUberは『白タク運転に当てはまる』として認可せず、Uberを使ってもハイヤーしか来ないので、使うメリットは何もなく普及していないので無理もない。
2009年に米国サンフランシスコで生まれたUberはイノベーションの代表的なケースである。Uberは従来のタクシー業界を破壊しながら、世界70カ国に広がる配車サービスであり、年間売上高は1兆5000億円にのぼる。白タクの『うさん臭いイメージ』とは随分違う。
私は世界各国に良く出張するが、かつてはタクシーが悩みの種であった。時には『タクシーメーターを倒さず、法外な料金を請求し、ぼったくりタクシー』に出会う事もあった。英語の通じない運転手に困ったり、支払いに現地通貨の用意も必要。大体タクシーを呼ぶ事そのものが厄介であり、時として長い時間待たねばならない。Uberにはこのような心配が全くない。
今回のツアーは20人を超える大人数である。一台の車に乗れず分乗してレストランに行く場合も、二次会のクラブに出かける時も、どこからでも呼べるUberは本当に便利であった。スマホに行き先を入れるだけ。英語での交渉も要らず、現地通貨もチップも不要。到着地までスマホのナビが道順ガイド。着いたらただ降りればOK。登録したクレジットカードで自動決済され、領収書がメールに送られて来る。全て日本語表示。そして値段はタクシーの半分。こんな便利なUberは、タクシー業界を敵に回し、すっかり市民生活に定着している。サンフランシスコではUberはタクシーの6倍に達しているそうである。高級ホテルでもタクシー配車業務に変わり、Uberを推奨している。こんな便利なサービスも日本では『白タク』と断じ、認可しない。
ガラパゴスと言われながらも、過去に執着しオープンイノベーションに難色を示す日本の姿勢は、製造業界における大手企業の経営方針にも、随所に現れている。日本FA業界の大手企業は、世界から見たら『独自の閉鎖性に依然こだわっている』と言わざるを得ない。CNCの象徴メーカーは、独自ネットワークを武器に賛助企業を募り、さまざまな機械に搭載された自社NCの『つながる』を推進している。一方PLCの大手メーカーは、国際的な企業間アライアンスを強化している。
これらの企業努力に対し『日本企業もオープン化に前向きになってきた』と評する声も多く、明るい話題ではあるが、世界のオープン化やイノベーションとは少し違う。
ABBがB&Rを買収し、総合ソリューションの幅を広げながら、オープン指向を強めている例を見るまでもなく、欧州FA連合は『ソフトオリエンテッドなソリューション』をベースにオープン化で世界を席巻しようとしている。ハードウェアオリエンテッドに固守する日本のFA業界に危惧を覚えるのは私だけだろうか?
周回遅れの日本とAPIエコノミー
日本は自他共に認める製造大国であり、デジタル変革にも前向きで、M2Mネットワークも世界最高峰に達していることに疑いの余地はない。しかし、世界はスマホを使ったイノベーションが急速に台頭し、進化を続けている。Uberやフィンテックなどはその代表事例であり、世界を歩くと日本の保守的な周回遅れにハッとさせられる事が多い。日本を除く世界中で、破壊的イノベーションによる時代の進化とパラダイムシフトが起きているが、日本国内は依然として従来ビジネスの破壊を恐れ、真のイノベーションを封鎖しようとしている。
APIエコノミーとは、米国では常識となった概念であるが、日本ではあまり認識されていない。APIエコノミーとは、オープンイノベーションの象徴であり、Uberやフィンテックがこの代表事例である。自前だけでは不可能な「企業と企業」「ビジネスとビジネス」がAPIエコノミーでつながり、新たな付加価値と新たな市場を生み出す『オープンイノベーションによるビジネス創造』は壮大である。このイノベーションは第3のプラットフォーム上で実現されている。
周知のごとく第3のプラットフォームとは、スマホ・ソーシャルネット・モバイルをベースとしたクラウドの世界の事であるが、日本の製造業界のソフト開発は、依然としてパソコンを主役とした第2のプラットフォームが主流となっており、閉鎖的思考から抜け出せていない。
Uberやフィンテックを『危険だ!』などと批判するのは簡単であるが、日本の閉鎖感覚から『新ビジネスは決して生まれない』という事実を、我々は認識しなければならない。日本のものづくりは、素晴らしい従来技術とインフラを持ちながらも、次世代へのデジタルトランスフォーメーション(DX)に乗り遅れている実態は、海を渡り日本を直視すれば明白である。
昨今の好景気に支えられたFA業界であるが、業界を支える大手企業は特に、直近の業績に奢る事なく周回遅れの現実を直視して欲しいと切に願う。
◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。