藤本教授のものづくり考(8)

金融業界が果たす役割

当初私たちは、この運動を「産官学」の取り組みとして考えていました。ところが、せっかくインストラクターを育てても、肝心の中小企業主が消極的で、「うちは資金繰りと受注確保で手いっぱいだ。勘弁してくれ」と言って、尻込みする食わず嫌いの方が多いことがわかってきました。地域の改善活動では「出口戦略」で失敗するケースが多いのです。

試行錯誤を繰り返しました。そして結局、やや強引ではありますが、地域の金融機関に参画してもらい、その融資先の改善を行うという形が最も効果的であるという結論になりました。地域でリスペクトされている金融機関から、「お宅もぜひ力をつけてください」と言われれば、融資先の中小企業主にとって、その説得力は絶大です。そこで、私たちも「産学官金」と言い始めたのですが、出口戦略における金融機関の果たす役割の大きさを思い知るにつけ、やがて「産金官学」と金融の位置を格上げすることにしました。

ただ、地域の金融機関の中には、横並び志向が根付いたまま、新しい取り組みに消極的であったり、改善と聞いてもバランスシートの改善しか思い浮かばないようなところも少なくありません。現場の改善には、ものづくり現場の「流れ改善」、良い設計を引き込む「商売改善」、そして金の流れをよくする「バランスシート改善」の3点セットの連動が必要なのです。バランスシートの改善ばかりを言っていたのでは、むしろ逆効果となり、融資先を破綻に追い込みかねません。むろんそうした金融機関ばかりではなく、たとえば鹿児島銀行や伊予銀行、岡崎信金などのように、自ら現場改善指導力を持っていたり、あるいはその意思を持つ地域金融機関もあるので、地域金融機関の中でも意識が変化して、業界全体の重心がそちらに移ってくれれば良いと思っています。

実際に、地方金融機関の紹介で入った赤字中小企業に対して、ものづくりインストラクターがリードタイムの短縮を指導し、短期間で黒字化した事例も報告されています。

厳しい環境にある地域金融機関に一つの方向を示唆しているのではないでしょうか。

 

◆藤本隆宏(ふじもと たかひろ)
一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事、東京大学大学院教授/東京大学ものづくり経営研究センターセンター長。1979年東京大学経済学部卒業、三菱総合研究所入社、89年ハーバード大学研究員、90年東京大学経済学部助教授、96年リヨン大学客員教授、INSEAD客員研究員、ハーバード大学ビジネススクール客員教授、97年同大学上級研究員、98年東京大学大学院経済学研究科教授、2002年日本学士院賞/恩賜賞受賞、04年ものづくり経営研究センターセンター長、13年一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事。「生産マネジメント入門〈1〉」(日本経済新聞社)ほか著書多数

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