2018年は、デジタル社会を代表する「2つのデジタル乱舞」で幕が開いた。1つ目は「仮想通貨狂乱」であり、2つ目は「セミコン景気と中小製造業の活況」である。
1つ目のデジタル乱舞「仮想通貨狂乱」は、歴史に類がない。休みも夜もない仮想通貨取引所では、スマホだけで簡単に少額でも売買できるため、年末年始の休暇中にスマホ族の買いが集中し、たった数日で仮想通貨が50%から2倍以上の値上がりを繰り広げたのは「デジタル乱舞」の象徴であり、デジタル社会が生み出した未知数の出現である。
昨年は、多くの専門家の警鐘や暴落予想に反し、多くの仮想通貨が1年間で10倍から100倍に値上がりをし、膨大な利益を手にした『億り人』と呼ばれる一般庶民が突然台頭した。年末にかけて『億り人』成功事例を紹介するブログがSNS上でブレークし、メディアでも積極的に仮想通貨を報道した結果、これに触発された多くの人々が、われもわれもと投資に参加し暴騰を続けている。
ねずみ講にも似た状況がスマホ族を中心とした日本人の一般庶民に広がっているのである。ビットコインはじめ仮想通貨の買いは、中国や米国に代わって、日本人が一躍主役に躍り出た。
SNSやメディアにあおられ、周回遅れの買いに走る日本人の狂乱に不安を感じるのは私だけであろうか? 仮想通貨は18年に、その真価が問われることになる。単なる投機的対象ではなく、仮想通貨が実生活に定着していくか否か?が重要な分水嶺である。メガバンクや各業界の大手企業が、仮想通貨の実利用の検討や社会実験を行っている。中小製造業を対象とした受発注及びオークションを行う世界的なプラットフォームも計画されており、決済通貨として仮想通貨の実証実験も始まっている。仮想通貨の実利用こそが価値継続の絶対条件であり、18年がその試金石となるだろう。
仮想通貨狂乱とは裏腹で、実際の仕事にあふれかえる大忙しの中小製造業が続出したことも、18年正月を象徴する出来事である。大企業のサラリーマンにとっては、今年は例年より休みが長く、ゆっくりした年末年始であったと思われるが、中小製造業ではお正月返上で仕事をこなす企業が続出した。バブル崩壊から30年弱。リーマンショックなど、生死を伴う困難を乗り越えてきた中小製造業にとっては、過去に経験したことがない多忙な年明けであった。
また、中小製造業を襲う人手不足も深刻化を極め、ベテラン社員が休みを返上せざるを得ない状況も生じている。10年前のお正月には、不景気感が日本中を支配し『年越し派遣村』が話題をさらったのが嘘のようである。
17年を振り返ると、春先より始まった中小製造業の好況感は、2極化の傾向を伴いながら、勝ち組と呼ばれる企業に仕事が集中し、徐々にその傾向を強め極端な上昇エネルギーを伴いながら、18年のお正月に突入した。この好況は、円安定着による製造回帰や国内社会インフラによる内需拡大や、米国経済好調など様々な要因が絡んでいるが、特筆すべきはデジタル社会の「セミコン好況」である。
かつて好不況の山谷が激しかったセミコン業界が安定業種に豹変し、日本の製造業を牽引する機関車役に躍り出た。精密板金業界でも、過去類のないセミコン景気に湧いている。その背景はスマホとIoTの台頭である。この台頭により、セミコン需要は増大し、新製品への入れ替えサイクルも大幅に短縮した結果、セミコン業界の歴史的好況を生み出している。まさに第4次産業革命・デジタル社会による実需増大であり、デジタル実需の幕開けと言っても過言ではなく、この傾向は今後も続くと思われる。スマホ・IoT恐るべしである。
この影響は、セミコンのみならず多くの業種に広まっている。ロボット需要にも甚大な影響があり、制御盤の筐体製造は既に供給不能の状況に陥っている。18年は、中小製造業にとってチャンスに恵まれた年であることに疑う余地はないが、課題も多くあり決して予断を許さない。
OECDデータに基づく16年の日本の労働生産性は、主要先進7カ国で最下位。日本の製造業の労働生産性は、この20年間下降を続け95年以降では最低の14位である。また、深刻な人手不足が中小製造業を襲っており、明確な打ち手を見いだすことは容易ではない。
中国・アジア諸国との競争も考慮しなければならない。アジアでは、猛烈な設備投資とデジタル化が進む成長企業が続出し、日本のものづくり優位性が揺らいでいる。残念ながらアジア各国では、日本のものづくりをお手本にする国は少なく、逆に日本の仕事を奪う戦略を立て日本攻略を虎視眈々と狙っている。この状況のまま、日本の中小製造業は受注を維持できるだろうか? 利益を十分吐き出す経営が継続するだろうか? この真価が問われるのが18年である。
18年は、中小製造業にとってチャンスに恵まれた年であることに疑う余地はないが、低い労働生産性を打破し、継続的な好景気維持を実現するためには、足元のデジタル変革による利益創出が必須であり、デジタル化・IoT化の推進こそが継続の条件である。幸いにも日本の中小製造業は『現場に強く、事務所に弱い』体質にあり、弱点改善にはデジタル化が極めて有効に作用する。事務所や工場のバラバラになった情報を一元化(社有化)し、『情報の5S化』を手がけ、製造現場の『情報の一元管理とデジタル化』を実現するだけでも、エンジニアと事務職の生産性を大幅に向上し、筋肉質のデジタル変革実現することが可能である。
当社(アルファTKG)でも、中小製造業のための特別なPDM/ERPシステムを準備し、中小製造業のデジタル変革のお手伝いをしていく所存である。デジタル乱舞に明け暮れたお正月に続き、デジタル時代の果報を享受し、継続性のある成長路線の18年であることを祈っている。
◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。