何を目指すべきか
現場が「良い流れ」を作っても、「良い設計」が伴わなければ意味がありません。「良い設計」を自ら創る、あるいはそれを親企業や本社から引っ張ってこられなければ、良い価格がとれず、現場は報われません。
東大の新宅純二郎教授が、設計と生産の両方を敷地内に持つ「機能完結工場」を日本国内に増やすことを提案していますが、大いに賛成です。また、下請け企業といえども、「顧客の顧客」を視野に入れ、儲かる良い図面を自社に引き込む努力が必要です。
優良中小中堅企業に求められるのは、「現場が流れを改善し、社長が走り回って良い仕事をとってくる」であり、これは今も昔もなんら変わりがありません。 「冷戦後の苦闘の時代」さえ乗り越えてきた現場のしぶとさ、その土地で生き残り雇用を確保しようとする集団意思を尊重し、それを企業全体の力に転換して、「グローバル全体最適経営」を目指すべきです。当期の損益計算書のみに囚われた、短期的視野のグローバル生産拠点戦略をとっていた一部の企業は、今現在窮地に立たされていますが、論理的にも環境認識的にも選択を誤った結果ですから仕方がありません。あとは速やかな軌道修正を期待するばかりです。
近年、営業利益率十数%以上という史上最高益をたたき出している日本の中堅造船企業が良いお手本です。経営陣が的確に潮目を読んで「良い設計」につなげる一方で、現場が改善を続けて「良い流れ」を作り続け、世界一と言われる生産性を実現した造船所があります。また、リーマンショック後でも数年分の受注残を確保していた会社や、あるいは、船種によっては世界一の造船量を誇るところもあります。それらの現場は、ほとんど国内にとどまっています。中国企業は軒並み撤退し、韓国勢も赤字を繰り返すありさまで、造船業は「構造不況業種」のレッテルを貼られて、国の政策からも長年にわたって見放されてきました。そうした古い産業でも、工夫と努力次第では、こうしたことが可能だという事実は、私たちにとって大きな教訓になるでしょう。
◆藤本隆宏(ふじもと たかひろ)
一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事、東京大学大学院教授/東京大学ものづくり経営研究センターセンター長。1979年東京大学経済学部卒業、三菱総合研究所入社、89年ハーバード大学研究員、90年東京大学経済学部助教授、96年リヨン大学客員教授、INSEAD客員研究員、ハーバード大学ビジネススクール客員教授、97年同大学上級研究員、98年東京大学大学院経済学研究科教授、2002年日本学士院賞/恩賜賞受賞、04年ものづくり経営研究センターセンター長、13年一般社団法人ものづくり改善ネットワーク代表理事。「生産マネジメント入門〈1〉」(日本経済新聞社)ほか著書多数