【ディップスイッチ特集】デジタル機器需要増で安定 IoTの取り組み追い風

ディップスイッチの市場が堅調に拡大している。デジタル機器の普及が進む中で、回路切替のメカニカルな機構が確実で視認性上からも評価を高めている。ディップスイッチメーカーは集約されつつあるが、量産化によってコスト競争力は強くなっていることもあり、当分はこの状況が続きそうだ。機能的にはほぼ完成されていることから、デジタル機器の需要増と用途開拓が今後の市場動向を左右しそうだ。

 

進む「省エネ化」

ディップスイッチは、電気信号の制御を目的に、機器のプログラム設定、回路切り替え、およびチェック用などで主に使用される。操作用スイッチがタッチパネルなどに代替される傾向が強まる中で、ディップスイッチはデジタル機器の増加に合わせて比較的安定した需要を見せている。

国内の市場規模は70億円前後と見られているが、単価が下がり気味であることから金額的には伸びは低いものの、数量的には過去最高を更新していると見られている。

このため、量産力の高いメーカーに集約される傾向が強まっているが、量産効果から利益は増える傾向にある。

ディップスイッチの用途は、コンピュータやコンピュータ周辺機器、情報・通信機器、放送・映像機器、事務機器、金融端末機器、計測機器、自動販売機、ゲーム機器などに加え、FA機器でも、PLC、コントローラ、インバータ、温度調節器など非常に幅が広い。

最近のⅠoTという言葉で代表されるつながる時代の中では、電子機器が大きな中核を成しており、センサ、コントローラをはじめとした機器の中にはディップスイッチが信号制御や信号切り替え用として使用され、大きな市場になりつつある。

また、最近新たな市場として注目されているのが、PV(ソーラー発電)ストリングモニタリングユニットでの用途だ。ソーラパネル本体のID番号、通信速度などの設定をディップスイッチで行っている。

昨今の省エネ化対応への工夫が各方面で進む中で、ディップスイッチは待機電力を使わず、微少電力で使用できるなどの特徴から、設計を見直す動きも見られる。

ディップスイッチは、電子機器のプリント基板上の狭いスペース内に取り付けられることが多いことから、形状の軽薄短小化が進んできた。しかし形状的にはほぼ限界のサイズになりつつあり、新たな価値を追求しはじめている。

そのひとつが前述の省エネ化対応であり、もうひとつが環境負荷の低減だ。RoHS指令やREACHなどの環境対応はほぼ完了しているが、難燃剤であるハロゲンの使用を低く抑えた製品も登場している。低ハロゲン品として、カバーおよびケースに700~800ppmの塩素を使用しているが、ノブには臭素不使用となっている。こうした、省エネ、環境負荷低減の動きはディップスイッチの今後の動向を左右するともいえる。

 

接触方式に工夫

ディップスイッチは、操作部の方式によってスライド型、ピアノ型、ロータリー型、レバー型、押しボタン型など多種な方式が用途によって使い分けられている。一般的にスライド型が最も多く使われており、極数は8極と4極が多い。しかし、メーカーによっては5極、7極といった奇数極タイプに対応している。

ディップスイッチは、搭載する機器によって操作頻度が極端に異なる。一度設定するとその後は、ほとんど操作しない用途がある一方で、頻繁に操作する用途もあり、使用機器や使用場所によっても操作頻度が極端に異なる。そこで、ディップスイッチがどんな使われ方をしても確実な切り替えができるように、セルフクリーニング機構や、接点間の摺動圧を高める構造、接点に金メッキを施してさびなどから接点を守る方法など、各社が独自の接触方式でディップスイッチの信頼性を高めている。

例えば、塩水噴霧試験では周囲温度50℃で、塩水濃度5%の雰囲気中に48時間放置した状態で、接点部にさびなどによる接触不良が起きないかを確認するなど高い品質信頼性を追求している。

セルフクリーニング機構では、操作時に接点間を擦り合わせることで接点表面の不純物も同時にクリーニングすることで接触不良を解消している。

また、コスト的には高くなるが、金メッキ接点は微少電流用途などでも接触部が経年変化しないで長期間の安定した接触信頼性を発揮する。最近はコストを下げるために、接点に金メッキを使用しない錫メッキを使用したディップスイッチも販売されている。

搭載する機器によっては、錫メッキ使用でも一定の性能が確保できるというユーザーの声も聞かれ、使い分けが進みそうだ。

ディップスイッチは、一般的にプリント基板に直接実装されることが多いが、すべてのディップスイッチが基板に実装されるわけではない。しかし、プリント基板上に半導体、コンデンサー、抵抗などといった、ほかの電子部品と一緒に混載されることが多いことから、端子間の距離(ピッチ)を国際標準格子間隔(2.54ミリ間隔、φ0.8~1.0ミリ取り付け孔)で設計され、自動はんだ実装機によって取り付けられることも多い。しかしその後、ディップスイッチの専有面積をさらに小さくするハーフピッチ(1.27ミリ)タイプのディップスイッチが開発され、従来(1インチ)の半分のスペースを実現したことで、機器の実装密度はさらに高まった。

現在では、ディップスイッチの約半分でハーフピッチタイプが使用されていると見られている。薄型化も著しく、ハーフピッチで高さ1.45ミリ、体積比でも従来比約半分とさらに高密度実装が可能になる製品も開発されている。こうした薄型タイプでは、本体の溶着方法もレーザーなどを使った新しいやり方を採用している。

ハーフピッチの操作方式も、スライドタイプに加え、ピアノタイプや押しボタンタイプなどバリエーションが拡大している。押しボタンタイプは、上から押すだけで操作できることから、奥まった狭いところにも取り付けできるのが特徴で、スペース効率がさらに向上する。シーソ型では、操作性をよくするために、表面に溝とストッパーをつけることで、確実な切り替えを実現した機種も開発されている。

ディップスイッチがD(デュアル)でON-OFFの切り替えで使用するのに対して、ディップスイッチの片側部分のみで、1極がコモン端子を持つ形状のSIP(Single Inline Package)スイッチは、スペースが2分の1になる。当然のことながら、その分の実装スペース性が向上し、機器の小型・軽量化につながる。

ロータリータイプのディップスイッチの使用も多い。7ミリ角、高さ3ミリ前後の角形に、時計の文字盤のように数字および記号が記名され、回路に合わせてつまみで設定する。実装方向を操作によって、上からや横からなどが選べる。コードの設定が多様に行えるのも特徴である。端子ピンの構造では、従来主流であった4×1端子から、欧州で増えている3×3端子を採用するメーカーが目立つ。

そのほか、抵抗やダイオードなどを内蔵した複合タイプのディップスイッチも発売されている。後付けで抵抗やダイオードを取り付ける必要がないため、基板の省スペース化と作業工数の削減につながる。

 

量産効果を発揮

ディップスイッチの市場は、生産数量の増加でコスト対応力を強めており、今後もこの傾向は強まりそうだ。為替が比較的安定していることから、極端な海外生産シフトの傾向を見られないものの、ほとんどのメーカーが海外生産を基調に展開して、地産地消が定着している。量産効果を発揮するためにも集中的な生産は今後も進みそうだ。

ⅠoTによるデジタル化、省エネ化、使いやすさなどの特徴を生かしながら、ディップスイッチの需要は今後も安定した状況が続くものと見られる。

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