“マーケティングの目”育成 D・Hチーム活用再考も
1990年代になってパソコンと通信がビジネスに深く入り込んできた。21世紀に入ると情報化の波はあっと言う間に情報化社会をつくってしまった。それ以前の工業化社会の進み方も速かったが、情報化社会になると、あらゆることのその変わり身の速さに驚くばかりである。
「セーの法則」というのがある。「あらゆる経済活動は物々交換にすぎない、だから生産物の総供給と総需要は一致する」というものである。ケインズはこのセーの法則を一歩進めて「供給は自ら需要を生み出す」と表現した。工業化社会は、まさにこのセーの法則が生きているような一般消費市場であった。つまり工場から生み出される製品が需要をつくっていたのだ。まだ市場には製品不足感があったが故である。そのためマーケティングは製品中心となり、製品の機能そのものが消費者を呼び寄せた。
バブル崩壊後の需要の停滞期以降、製品中心のマーケティングでは付加価値がとれなくなったため、顧客に主眼を置いた顧客中心のマーケティングに移行した。21世紀に入って20年近く経過し、社会は成熟度を深め、情報化社会と言われている社会が進行している。情報化社会がマーケットを形成していくのだから、マーケットと共に歩むマーケティングはうかうかしてはいられない。これからの一般消費市場のマーケティングは、成熟した市民の社会的価値意識やサービスの創出を念頭に置いているようだ。
業務産業市場で活動する電気部品や機器の営業では、メーカー営業であれ販売店営業であれ、営業部隊からマーケティング営業というものが抜け落ちているようだ。前線にいる営業部隊は、商品機能のアピールや商品のアプリケーションの売り込みというように販売力一本の役割を担うことになっている。しかしこの業界でもマーケティングの重要性は日々増している。だから営業に代わってマーケティングを担当する企画や商品部を専門化し強化してきたのだ。
ずいぶん前から業務産業市場の営業でも「顧客満足営業であらねば」という掛け声はかかっているのだが、顧客側に軸足を置いたマーケティング営業を取り入れているのか、それともまだセーの法則通りに供給が自ら需要をつくり出すという製品中心のマーケティング営業になっているのか、実際はよくわからないままである。わかっていることは、マーケティング部門が創出した新商品を営業が全力で販売しなければならないことである。
だから、営業は製品中心か顧客中心のマーケティングかの問題にはあまり関心がないようだ。ただ営業の戦術論として顧客満足営業や課題解決営業を提唱していくことが重要であって、実際の関心事は商品力やアプリケーション力で競合に勝つことなのだ。そのため、商品やアプリケーションの知識を習得し成果を上げようと、商品の差異化を企画を通じて生産側に要望するようになる。
販売力はめっぽう強いがマーケティングの目が衰えている営業は、顧客のわがままと本質的な顧客満足の充足との区別ができにくくなっている。だから、生産側に伝わる情報の質・量ともあまり良くない。いずれにしても、グローバル化・情報化がますます業務、産業市場にも色濃く影を落とすことになる。
ICT化、コンパクト化、超多様化、IoT化などが絡み合って変化してくる。開発、生産革新技術、情報システムのような現場はそれに沿って活動している。だから第一線の営業は、マーケティングの目を持たなくてもいいというわけにはいかない。多くのその目を育成するためにも、ディーラーヘルプチームの活用を再考する必要がある。