知財探訪(6)オリンピックから考えるイノベーション

技術市場性と知財が相関

4年に一度のウインタースポーツの祭典、2018年平昌冬季オリンピックが閉幕しました。氷雪の世界という厳しい環境の中で繰り広げられたアスリートの熱い闘いは、夏のオリンピックとは一味違う感動をもたらしてくれました。

磨き上げ鍛え上げた選手の技術や力が競技結果を左右することは当然ですが、冬季オリンピックの競技種目は、スキーにしてもスケートにしても、さらには「下町ボブスレー」の不採用で物議を醸したソリにしても、夏のオリンピックに比べて用具の性能に影響される度合いが大きいように感じます。おそらくは冬のスポーツ用具についても長年にわたりたゆまぬ研究開発が進められ、特許発明も産みだされてきたことでしょう。

そのことを確かめたくて米国特許データベースにアクセスしてみました。米国・欧州・日本・中国などの特許庁は、いずれも出願公開制度に基づいて、出願から18カ月経過した時点でその出願明細書を公開しており、テキスト検索や番号検索で誰でも簡単に内容を見ることができます。

まず検索項目のうち「要約」に検索語として“ski”を入れてみたところ、1975年から現在に至るまでに、約5000件ものスキー関連特許出願がなされたことが分かりました。それでは“ice skate”はどうかというと、191件しかなく、“snowboard”については29件、“bobsleigh”に至ってはたったの1件しか見つかりませんでした。それぞれのスポーツの大衆浸透度、すなわち商業展開規模や歴史の長さがこれらの数字に反映されているのだと思います。技術の市場性と知的財産との相関がこのようなところにも見て取れます。

同じような観点で産業全般を見ると、今後どのような技術分野で特許出願が増えてゆくのかに興味が湧いてきます。新聞ではIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、第4次産業革命という言葉を連日のように目にするようになりました。しかし、それらの言葉が何を意味し、どのような特許出願につながるのかと問われると答える自信がありません。IoTの発達により取得可能となった「ビッグデータ」をAIが学習し、新たなイノベーションを引き起こすという流れはなんとなく分かりますが、そのイノベーションがどういう方向で起こってゆくのかを予見することは人知を超えた作業になるのかもしれません。

日本特許庁では毎年「特許出願技術動向調査」を行っています。特許情報に基づいて技術開発動向を分析するもので、園芸農業から再生医療、新半導体、素材、エネルギー、クラウドビジネスに至るまで広範で多岐にわたるテーマを掲げています。

ここにIoTやAIが関与するとなるとイノベーションの方向がさらに広がり、特許要件としての進歩性や新規性についての基準や特許審査体制なども変わらざるを得なくなるのではないか、などと考えたりします。

さて、オリンピックの後にはパラリンピックが続きます。身体のハンディを克服して極限に挑む姿には、AIと対極にあるとも思える人間の尊厳を見る気がします。「健常者の上から目線」と言われるかもしれませんが、競技を終えた後のすがすがしい笑顔や、思うように記録が伸びずに悔しさをにじませるパラリンピアンの姿にはいつも素直に感動させられます。2020年の東京オリンピック・パラリンピックが、ますます楽しみになってきました。

 

◆清野安希子(きよの・あきこ)
国際基督教大学教養学部卒業。教育関連企業勤務を経て、2002年に知的財産専門翻訳会社の知財翻訳研究所(13年に知財関連サービスの拡充に伴い知財コーポレーションに社名変更)に入社。2年間の事務職勤務の後、営業担当として日本全国の大手メーカー知財部とのコネクション構築に注力。15年に中小企業診断士登録。現在は経営企画室長として事業戦略の立案や新規事業開発に携わっている。

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