付加価値追求する時代〜万能でないロボット 現場に適切な情報を
アメリカのヒーローがスーパーマンであった時代に、日本のヒーローは鉄腕アトムだった。アトムは人型ロボットである。
ロボットの語源をたどれば20世紀初頭の、ある小説の中で登場したという。そのロボットは機械ではなく、化学の合成でつくられた人間の姿をしたものであって、人の命令によって労働をする都合のいいものだった。
日本にロボットという概念が入ってきたのは戦後であった。漫画の世界の中で登場した鉄腕アトムは精密な機械でつくられた優秀な頭脳をもつ人型ロボットであり、人間としてスーパーマンの働きをするロボットであった。アトム効果と言ってもいいのだろうが、日本人はロボットに愛着をもっている。
現在、政府の成長戦略の領域にロボットが入っているせいなのか、やたらにロボットの文字が目につくようになった。かつてロボットと言えば鉄腕アトムを連想していたため、通常、人の代わりに自動制御で動く機械をロボットとは言っていなかった。「自動機」とか「オートメーション装置」とか言われて、「ロボット=鉄腕アトム」とは無意識に区別していたのである。
ここ数年ロボットに焦点が当たっている。政府の成長戦略にロボットが挙げられているだけでなく、労働人口が減ってくると言われているために焦っていることも手伝っているのだ。その上、中国、韓国や欧米では産業用ロボットの導入が日本を超えているというニュースを聞くと、更に焦ってくるようだ。しかしそんなに焦る必要はないように思う。
統計に出てくる産業用ロボットは多軸の汎用自動機のようである。昨今では自動機のことを何でもロボットと言う風潮があるが、日本の製造現場では生産技術大国と言われ出した昔から、現場に合った多種多様の治具や装置を多数つくって使ってきた。
したがって、統計には出てこない、現場でつくられた専用自動機が多数動いている。
「一軸ロボット」と言われているものも、つい最近まで「一軸アームモジュール」と言ってロボットではなかったのだから、以前から現場では膨大な数の専門ロボットが稼働していることになる。そのようなきめの細かい生産技術が生産性の高さに寄与してきた。
日本の製造現場に自動機が盛んに入るようになったのは、現在危惧している労働人口不足ではなく、人件費の高騰からだった。その後のオイルショックでは省エネ技術が自動機に入った。続いて、3K(きつい・汚い・危険)の仕事をする自動機を経て、品質向上・生産性向上のための自動機が製造現場を埋めた。
21世紀に入る少し前には、国内製造業の主力の自動化はほぼ出来上がっていたようだ。なぜならその頃から現場にいる生産技術者の人数が減り出したからである。その代わりに専用治具や専用装置、あるいは専用の自動機をつくるベンダーの数が急速に増え出して現在に到っている。
今、声高々にロボットが喧伝されているが、多軸の汎用ロボットにのみ注目する必要はない。日本の製造現場に一番フィットする自動化・自動機とは何かを、焦らず落ち着いて考える必要がある。汎用ロボットは使い方によっては人手不足や品質安定に大きく寄与することは間違いない。
政府もロボットの普及を後押ししているので、今や業界にとっては追い風が吹いているが、高価な汎用ロボットが何にでも万能薬になるわけではない。かえって付加価値を落としたのでは意味がない。今や付加価値を追求する時代なのだ。
ICTやIoTが製造現場にどんどん入ってくるのも付加価値を上げるためである。だから製品としてのロボットありきを薦めるのではなく、付加価値の向上を目指している現場に適切な情報を発信するのも重要な販売店の仕事である。それには現場のことを知ろうとする努力が必要だ。