IoT導入時の条件 カギは技術者の職場への愛着
「第4次産業革命」という言葉が使われるようになって数年がたっている。製造業でよく使うようになったのは2015年にドイツが発信したハノーバーメッセからであったようだ。当初「インダストリ4.0」というドイツ生まれの生産方式は、量に関係なく効率的な生産ができるという触れ込みで製造関係者に広がった。
インダストリ4.0と並行して「IoT」という言葉がはやり出した。こちらの方はインターネットの世界と通じるものがあったのか、今では何かにつけIoTという言葉が多用されている。製造業の現場でもIoTという言葉が飛び交うようになった。製造業におけるIoTは生産効率の飛躍的向上を目指すためにやるもので、生産技術の革新性が問われることになる。
現在、製造現場では急ピッチでIoTに取り組もうとしている。これまでも製造現場では地道に改善努力をしてきたが、新たに上の方から「IoTで生産性を上げよ」という指示が出ているようである。
現場の言動がそれを裏付けている。製造現場の技術者が、最近営業マンに言うことの中にその裏付けがある。「何か良いIoT向けの商品があったら提案してほしい」「何か良いIoTの事例があれば紹介してほしい」という会話である。抽象的でありよく分からないが、IoTは生産性を上げる特効薬のようなもので、生産性を上げて品質を安定させるためコツコツやってきたこととは違うというイメージを持っているからだろう。まだIoTが始まったばかりか、始まろうとしている時の様相である。
かつて1960年代の半ば頃、「自動制御」「オートメーション」という言葉が使われ出した頃に、製造現場の技術者が自動制御は便利なものだということで、「何かいいオートメーション機器はないか」と営業マンに聞いていた時の状況と似ている。高度成長が続いて需要が供給を上回り、つくれば売れる状態だったため生産力が課題であった。機械の自動制御技術が少しずつ進化し始めた頃に、そのような会話が随所で聞かれたのである。
ところが60年代半ばのモーターで動く機械や設備を多数用いて生産をしている工場を自動制御化したいと言っても、自動制御を搭載できるような設備環境があったわけではない。仮にその時PLCがあったとしても、使いきれるものではないということだ。工場の生産をエレクトロニクス技術で実行するには、実行可能にする条件整備をしなければならない。それには機械装置や生産ラインを自動化生産するためのほかの技術が必要であったし、多大な投資が必要であった。
高度成長期には金融機関もそれに乗って資金を提供し、企業は技術者の養成を積極的に行った。伸び盛りの時は勢いがあり、技術者のチャレンジ意欲も旺盛で、現場技術者が機械装置や生産ラインづくりに取り組んで工場の自動制御化を成し遂げてきた。
もし現場技術者が工場の生産ライン構築にそれほどの愛着を持たず、専門の機械装置メーカーに丸投げして最良のものをつくってもらっていたらどうなったか。それでも専門技術でつくるのであるから素晴らしい生産ラインができていただろうが、メーカーであればやはり欲もあるし付加価値が欲しい。ユーザーである製造現場の要望を超えたことをして、資金さえ許せば余剰のスペックを持ったラインが出来上がっていたのではなかろうか。
現在は余剰スペックを許さないグローバル競争社会であるから、IoTの導入でもそのような心配をしなくてもよいのであるが、それには条件がある。その条件とは製造に携わる技術者が現場に愛着を持てるかどうかである。そんな目で顧客と接することが営業の意欲向上につながる。