■ロボットの導入が進んでもティーチングマンが足りない!<上> 育成に費用・時間のロス
日本中で不足
現在、ロボットのティーチングマンが日本中で足りていません。ティーチングマンとは、産業用ロボットをティーチペンダントで操作しながら、その位置を記録させる作業者をいいます。この作業でロボットにプログラムが作成されるので、あとはそのプログラムを再生させれば、ロボットを動かす事ができます。
最近は、ティーチングレスといって手でロボットの先端を動かして簡単にティーチングできるロボットばかりがニュースに取り上げられていますが、その種のロボットでできる事は、精度などの理由で搬送等の一部の用途に限られておりますし、搬送できるモノも軽量に限られます。
つまり、それ以外の用途である溶接・バリ取り・シーリング・ローラーヘム・カット・穴あけ・溶射・塗装・洗浄・肉盛り・搬送(軽量でないもの)などではティーチングが必要となります。しかも、これらの用途では熟練のティーチング技術が必要とされ、加工したい製品に対してある一定の姿勢をとりたい、もしくはサイクルタイムを少しでも短くしたい、もしくはカーブしている個所を細かくティーチングしたい、などの事を実現するには多くの現場での経験を要します。したがって、熟練のティーチングマンを育てるには1年や2年では難しいとされています。
さらに、ティーチングマンを育てるのが困難という問題もあります。時間をかけてティーチングマンを育てたくても、自社で訓練させるしかないのが実状です。なぜなら、実務経験を積ませたるために客先に派遣をしようとしても経験が浅いとお客さまからNGを出されてしまうためです。この数年の訓練の人件費も膨大なため、よほどの体力のある会社でないと厳しいです。
ロボットを導入する企業の目的は、作業効率UPや人件費削減のはずなのに、ティーチングマンを育てるために費用や時間のロスが生じてしまうというジレンマをかかえている企業は少なくありません。
呼ぶと高額に
ではティーチングマンは外注で呼べばよいかというと、大変高額になってしまうのが現状です。景気が良くなってきた事情もあり、ティーチングマンの需要に対して供給がまったく間に合っていないために、ティーチングマンを呼ぶ金額は近年うなぎのぼりです。
私の知り合いで経験7年のフリーの熟練ティーチングマンがおります。彼は月に5日以上の休みをしっかり取っておりますが、それでも月収はなんと250万円です。信じがたいかもしれませんが、それでも企業から数か月先まで、連休は1年先まで予約されております。ちなみに、その彼だけが特別なのではなく、同レベルのティーチングマンは同じような収入です。
体力がない会社が、月250万円を払えるでしょうか?
中小企業がロボットを導入したくても、このティーチング問題により諦めるしかないという事をよく耳にします。(続く)
◆山下夏樹(やましたなつき)
1973年生まれ。富士ロボット株式会社(http://www.fuji-robot.com/)代表取締役。産業用ロボットコンサルタント。サーボモータ6つを使って1からロボットを作成した経歴を持つ。自社のオフラインティーチングソフトでさまざまな現場で産業用ロボットのティーチング工数を10分の1にするなど、生産効率UPを実現してきた。さまざまな現場での問題解決の方法を知る、産業用ロボットの導入のプロ。コンサルタントは「とりあえず無償相談から」の窓口を設けている。