新しい需要の発掘を コンパクトな生産手法活用
地理や気候がそこに住む民族の気質に与える影響は少なくない。海に囲まれた島国であることが日本民族の気質に影響を与えたことは否めない。地理上に関する地政学はそのことをよく説明している。
しかし、同じ領土面積を持つ英国も島国であるが、日本民族とはかなり違う気質を持っている。地政的影響のほかに気候が英国民族の気質に強い影響を与えたと言える。英国は北緯50度近辺にあり、厳しい環境である。北緯35度近辺にあり、温暖湿潤の日本とはかなり気候が違う。それがドライで合理的な判断をする英国と、ウェットで判官贔屓(びいき)、合理性よりは話し合いを好む日本との違いをつくっている。
また、気候の違いは時間の感覚にも表れる。南国民族の陽気さは明日への心配が少ないことの表れでもある。北国欧州は今日の厳しさを乗り切るのに数百年後を考えて手を打ってきたようなところがある。気候的には日本はその中間にある。悲観論を好み、将来を憂えて、しっかり準備する気質を持っているが、百年の大計をもって今日のことを犠牲にするほどでもない。
民族の気質は発明の多さにも関係してくる。モノ造りに関する産業革命でも第一次と言われた蒸気、第二次の電気、第三次のエレクトロニクス技術と、機械生産の先鞭をつけたのは北国欧州の民族である。
現在、業界で喧伝されているインダストリー4.0の第四次産業革命もドイツからやってきた。そして温暖湿潤の日本は、北国発のモノ造り産業革命を受け継いで発展させてきた。第三次のエレクトロニクス自動制御技術によるモノ造りでは世界の範になった。百年の大計は苦手でも、明日への備えに強く固執する気質がモノ造りに大きく寄与してきたのである。その気質には、今日の反省を踏まえて明日の生産性向上を目指す現場改善活動があった。
日本の地理的環境は、大陸とは違った島国ならではのモノ造りにも表れている。代表的なのはソニーのつくったウォークマンであり、日本勢の強い小型車である。何でも小さくしてしまう感性は島国から来ているのではと思わせる。
製造業では、付加価値を今日の人件費に求めて世界をさまよう時代は終わり、百年の大計を視野に入れて第四次のモノ造り革命をなす時代に入ったようだ。しかし、それにはかなりの設備投資やチャレンジ的技術が要る。
日本の製造業の大半は300人以下の中小企業である。グローバル市場での勝利を目指している大企業は、量産力や付加価値を大にするためにロボットやAI技術の導入、製造業のIoT化を進める膨大な投資をするであろうが、中小企業はそのような投資や技術習得を一気にできるものではない。しかし中小企業は大企業ができないことをやれる。大企業では大規模設備や多くのスタッフを抱えているため、日本国内で新たに起こってくる需要にやすやすとは取り組めない。ROE(Return On Equity:自己資本利益率)に縛られているからである。
日本が人口減になっても豊かな生活を享受するには内需拡大が必要で、そのためには新しい需要の発掘が必要だ。新しい需要は最初から大のものはない。そこで何でも小さくする感性がつくったコンパクトラインが功を奏するのだ。まさに多種少量生産をする国内中小企業の生産に合っている。多量が見えない中で少量ずつつくっても製造コストを低く抑えるコンパクトラインは、設備投資も少なくて済むため中小企業向けである。
部品や制御機器の販売店の顧客のほとんどは中小企業である。IoTと言って右往左往するより、まだまだコンパクトラインの行方に注目した方がいい。従来型の改善とは違う革新的な工程改善になってくるはずだ。そういう中小企業が増えてくれば国内製造業は繁栄する。販売店はそこに着目して営業活動をすれば、共に繁栄する。