■ロボットの導入が進んでもティーチングマンが足りない!<下> ソフトの工夫で対応力
「あるある」話
また、お金に余裕のある大企業がお金にモノを言わせてティーチングマンを外注することにも効率の問題があります。
先日もこのような事がありました。
私が経営しております富士ロボットにもティーチングマンの要請がよく来ます。
先日、要請があった工場は誰もが知っている自動車メーカーの工場です。その工場のラインの移転に伴い、数日間で複数のロボットのティーチングを行うという案件です。よくある話ですが、作業日の2、3週間前に「ティーチングマンが足りないので、何とかならないか」という急募です。
ティーチングマンの予定は平日でも1、2か月前には埋まってしまうので、このように作業日の直前に依頼されますと、経験年数1年もしくは2年くらいのティーチングマンしか残っておりません。
こちらとしては「これだけのスペック(ティーチングマン経験や能力)しかありませんが、よろしいでしょうか?」とメールや見積もりにスペックを記載しました。断られると思ったのですが、「それでも来てほしい」という要望を頂いたので、受注することにいたしました。
しかし、最悪の結果を招く事になりまして、工場のティーチングのリーダーに派遣されたティーチングマンのスペックが正しく伝わっておらず、そのリーダーから「話と違うから、帰ってくれ」とのことでしたので、帰らせる事になってしまいました。
原因としては、その工場のエンドユーザとの間に入っている商社がロボットに無知でエンドユーザにスペックを伝える事の重要さがわかっていなかったのです。
これはティーチングマンを要請される「あるある」話で、派遣を要請した会社もティーチングマンが足りないまま作業、また派遣した会社も要した時間や費用の損失を被る、という生産性としてはマイナス事態になってしまいます。
解決するには
ティーチングマン不足の解決方法として、ティーチングマンを増やせばよいと言われる方もいらっしゃいます。
しかし、前述のとおり熟練のティーチングマンを育てるには数年かかりますし、過酷な作業ですので、人口が減少している状況で絶対数を増やす解決方法は厳しいです。
解決方法の1つ目に、先ほどの例にお話ししたスペックの食い違いが起きないように、派遣先の担当者と派遣されるティーチングマンが直接会話できる環境を用意することです。言い訳になりますが、先ほどの例ではエンドユーザとの間に複数の商社が入っており、何より急募であったためお互いの空いている時間が確保できませんでした。現場の事情でなかなか難しい事は承知していますが、時間に余裕をみてティーチングマンを確保する努力をするべきです。ただし、この方法は根本的な解決法とは言えないです。次の2つ目こそ私が特に勧める方法です。
2つ目に、ティーチングソフトの活用です。ソフトである程度プログラムを作成していれば、現場で微調整をするだけで済むので、かなりの時間短縮になります。ただし、市場で出回っているほとんどのティーチングソフトは、操作が難しい、現場向きの機能がない、などの理由で工数削減にならないそうです。さらにソフトを活用するには3D(3次元)のCADが必須なのですが、多くの企業がいまだに2D(2次元)のCADしか持っていないというのが、日本の現状です。よって、3D化を急ぐことも重要です。
実は先ほどの実話でも、弊社が現場のデータの提出を依頼すると、信じられないかもしれませんが「まだ全体の一部しか2Dから3D化できていないので、2Dしか出せない」との事でした。
先進国でまだ2Dが残っているのは日本だけらしく、恥ずかしい事だと思います。
外注できても
多額の費用をかけてティーチングマンに外注をできたとしても、所詮は原始的な力わざです。理由は、その作業が終わった後に、その企業に何か生産性UPのモノが残らないからです。今、ものづくりの世界で効率UPを求められている状況に対し、何の根本的な解決になっておりません。このような原始的な方法が20年以上続いているのが、現在日本におけるロボット現場の悲しい状況です。
日本の企業は、早く最先端のソフトで効率UPする努力を行ってほしいと思います。
◆山下夏樹(やましたなつき)
富士ロボット株式会社(http://www.fuji-robot.com/)代表取締役。1973年生まれ。産業用ロボットコンサルタント。サーボモータ6つを使って1からロボットを作成した経歴を持つ。自社のオフラインティーチングソフトでさまざまな現場で産業用ロボットのティーチング工数を10分の1にするなど、生産効率UPを実現してきた。さまざまな現場での問題解決の方法を知る、産業用ロボットの導入のプロ。コンサルタントは「とりあえず無償相談から」の窓口を設けている。