製造に役立つ情報を コンパクトライン念頭に
あればいいなあという製品ができても価格が問題である。その程度なら買おうという価格であれば購買欲は出る。価格と購買欲がてんびんにかけられて売れていく。量産に値する製品になれば競争が生まれて、量産技術が発展してきた。その一方で、量産で付加価値を得てきたことによって、意外にも設備を大味にしてしまっていることに気づかないことがある。
1970年代、小集団によるQC(Quality Control:品質管理)活動が全盛の時には、設備を一つ造るにもきめの細かさがあった。その後、量産技術でぐいぐい押してきた時代を通っている間に、あのきめの細かなコスト意識が見られなくなっていたことが多かった。渦中にある組織や人は気づかない。
気づいていてもなかなか修正できない例も多々ある。一般家電がそうであった。消費者の関心を引き出すためいろいろな機能をつける競争が激しくなり、それが過熱して消費者の真のニーズを少し甘く見過ぎてしまった。結果、コスト高となってグローバル競争に敗退の憂き目を見たことは記憶に新しい。
現在の家電業界には、市場をセグメントしてその市場向きに企業が開発した製品が出てきている。それも大企業からではなく中小のメーカーからの製品が多い。市場の身の丈に合った製品の機能を追求し、製造量も多くはない。そうなると大量による付加価値額の追求でなく、中量少量でも付加価値がなければならない。かと言って価格を高くすれば顧客は寄り付かない。そこで生産技術が課題となってくる。
これまでの大量生産方式では工程間をつないで自動化してゆく搬送工程が増えてきた。搬送工程はちょっとした停止がつきものという課題があり、また、スループット向上という課題を解決するため、搬送工程をできるだけ短くする「間締め」を改善の主体にしてきた。
近年、国内の生産は中種中量が多くなり、組み立て工程においては工程間の搬送をなくしたセル生産方式にして搬送トラブルを回避し、スループットも上げている。しかし生産が全てセル生産にできるわけではない。少量ずつ造っても製造コストを抑えて付加価値を出すためにも、できる限り要らない機能をそいだ設備にする必要がある。
昨今、中種中量の生産ではコンパクトラインが脚光を浴びている。コンパクトラインは工程削減や集約、それに短縮を進めているラインだが、それだけではなく、要らない機能や過剰品質を徹底してそいで造られたラインである。生産工程の縮小で小規模な生産ラインとなるため、面積小・エネルギー小などの利点がある。それに需要への対応効果がいい。需要減になっても余剰設備が少なくて済むし、需要増でも増設が低コストで済む。さらに工程が短くなるため、スピードが上がるという利点もある。
しかし課題もある。設計の際に製品の部品や材料を全く新しい視点で見直すことの難しさである。それに生産技術においても革新性が求められる。これまでの延長線上で考えると、設備が過剰品質や過剰機能になってしまう。ぎりぎりまでそいでもちゃんとした製品を造る設備は、意外とできそうでできない。何かの理由をつけて過剰になるのだ。
製造現場の作業者の本音と向き合って、ぎりぎりに造る必要があるのがコンパクトラインなのである。コンパクトラインは少ない人数で生産するようになるため多能工が必要だが、これは日本人が得意とするところである。少量多品種生産を強いられる中小企業が元気になるのがコンパクトラインと言える。
販売店の生命線である顧客は、中小企業が圧倒的に多い。であるから、営業はコンパクトラインを念頭に置いて、それに役立つ情報を提供していくことが共に繁栄することとなるのだ。