アピール前に攻勢態勢 技術者の心を営業へ
リーマンショックは米国の住宅バブル崩壊が起こした金融危機だった。米国金融のウォール街から端を発した金融危機は、世界中を経済危機に陥れた。ウォール街のエリートたちはハーバードビジネススクール出身者が多い。リーマンショックの一端はわれわれにあるという反省を踏まえ、これまでのような研究・研鑽で、物事や社会システムを創り出す方向からの転換を計っていると言われている。
その方向とは人の心に寄り添って、そこから自分を見つめてみる。その上で自分自身が発する何かを見極めるという研究が盛んであると言われている。
何かビジネスと言うより哲学的であるが、現代社会ではこのように知識から心へとか、感情から精神へという流れに乗った論述が随所で見られるようになった。
経済社会においても消費材のマーケティングの主流が人の感情的満足から精神的満足の充足にかじを切ってきているのも、そのような社会のニーズの表れである。産業系のマーケティングもいずれ成熟した社会のニーズに沿っていくことになるだろう。現状では製品中心のマーケティングを脱して、顧客寄りのマーケティングによる商品開発へと移行中というところである。
部品・機器の販売店営業でも顧客寄りの顧客満足の旗を掲げて課題解決営業を目指している。現在行われている課題解決営業とは、顧客が発する案件を技術的・予算的・納期的にそつなく解決することのようだ。
営業戦線にも攻めと守りがあり、現行の課題解決営業は守りの分野になる。守り切ったら反撃という攻めに入らなければならないが、どうも「受注したら完」となり、反撃はない。反撃行為とは案件の周辺にあるもろもろの情報入手のことだ。例えば案件の背景や、案件で浮き彫りになった機器装置の概要やそれらにつながる装置情報等を素早く入手することだ。
また設計者がどの市場や顧客を狙って出してきた製品なのか等に関心を持って聞き出すことも反撃の第一歩となる。設計者の思惑がわかれば販売店営業として解決や提案の幅が広げられる。
このような攻めの営業をやることによって市場や現場の情報が豊富になり、技術者とは違った角度で見ることができるようになる。これもまた今はやりのダイバーシティの一環になる。現行の営業が攻めと思っている営業行為は戦略商品の売り込み拡散である。しかし技術者は忙しく動き、必要があればネットを活用する現状では、不必要時に売り込まれるのを好まない。まして新規の技術者を相手にすれば、関心のない応対をされてしまう。
それにも関わらず、商品の良さを精一杯アピールすることだけで終わっている。しかし商品をアピールする前に攻勢の態勢を築くことこそ重要なのだ。つまり攻め込む課題などを見つけるために、汗をかきながら技術者の心を営業に向かせなければならない。
この業界の草創期も同じような情景があった。まだ自動制御が広く認知されていなかったため、自動制御に使う部品や機器への関心は薄く、商品の良さで相手の心を捕らえるのは無理だった。当時の営業マンは、どうしたら商品を買ってもらえるのか、それにはまず自分自身をどのように売り込めばいいのかを悪戦苦闘して身につけていった。
当時とは取り巻く環境は大きく違う。しかし営業マンが不必要だというわけではないし、今も昔も技術者が生身の人間であることにも変わりはない。心さえ通じれば設計者だって営業マンと話をしたいのだ。
ウォール街のエリートではないが、大上段に構えて商品知識をひけらかす前に、リラックスして胸襟を開き、親しく設計者に語りかけることから始めた方が良い。そうすれば設計者は営業マンに向かって、本当に知りたい情報を話してくれるはずだ。