温度調節器(計)市場の伸長が止まらない。半導体やFPD(フラットパネルディスプレー)製造装置の生産が急増していることに加え、成型機市場、食品市場も堅調を維持している。一部のメーカーでは部品の調達に苦慮しているところもでている。各方面でIoTへの対応が強まるなかで、温度調節器(計)にもAI(人工知能)の搭載や、通信機能の充実といったIoTへの対応も進んでいる。市場は半導体に加え、今後はEV(電気自動車)などに対応して2次電池関連の市場も期待されており、好調な状況がしばらく続きそうだ。
温度調節器(計)は、温度・湿度・圧力など各種センサから取り込んだ測定値を、あらかじめプログラムした設定値と比較し、その差を修正する信号をリレーやアクチュエータなどへ出力することで、対象物の温度や湿度を調節する制御機器・システム。
温度調節器(計)の市場規模は、国内メーカーだけで350億円前後と推定されているが、ここ数年は増加基調で推移している。温度調節器(計)の大きな市場である半導体・FPD製造装置の受注がこのところ安定した増加基調で推移している。半導体・FPD製造装置の出荷は、日本半導体製造装置協会(SEAJ)の統計で2017年度は前年度比121.9%の2兆4996億円で、18年度も108.3%の2兆7072億円が見込まれており、2兆円市場が継続する。
スマートフォンやタブレットPC、自動車用画像センサなどの需要増を背景に半導体、液晶、有機ELの生産が急増している。スマホは機能がますます高度化して半導体など電子部品の搭載個数が増えている。
自動車の自動運転をはじめとして電子化でセンサや画像用半導体の生産も急増している。この傾向は今後も継続することは確実で、温度調節器(計)の需要にとっても大きな追い風となる。
半導体・FPD製造装置は従来、半導体の需給の大きな山谷の影響を受けることが多く、シリコンサイクルと言われているが、このところの需給はIoTなどで新たな需要増などから極端な山谷がなくなりつつあり、スーパーシリコンサイクル時代に入ったといわれている。当然のことながら、温度調節器(計)の需要もこのサイクルに準じた動きになってくることが予想される。
電池関連も2次電池に対する需要が拡大傾向となっている。特に欧州や中国市場でのガソリン自動車の規制により、EVなどの需要が飛躍的に増えることが見込まれている。
競争力強い日本メーカー
このところ為替が比較的安定して推移していることから、温度調節器(計)メーカー各社は極端な海外生産シフトは見られない。国内生産を継続しながら、国内と輸出市場への対応を継続しているところが多い。中国、韓国などの海外メーカーも技術力などの向上により競争力を高めつつあるものの、日本市場には入り込めておらず、アジア市場でも日本メーカーが依然健闘を見せた販売を展開している。より精度の高い温度特性が求められる半導体・液晶製造装置向けの需要拡大などもあり、日本メーカーが強みを発揮している。
温度調節器(計)の世界市場の規模は約750億円と推定されているが、日本メーカーの世界でのシェアがさらに高まりつつあるといえる。
温度調節器(計)の機能は、温度の目標値を入力し目標値に対して動作をさせるが、制御対象の特性によりすぐに安定させることは難しい。一般的に早く目標値に到達させる制御をしようとすると現在温度が目標値を行き過ぎたり、温度が上下に動いたりする。これをなくすには、目標値に遅く達する方法を選択せざるを得ない。
こうした微妙な温度の調節は、製品品質に大きな影響を与え、半導体や液晶パネル、小型成型部品などの製造では、温度制御を正確に行わないと不良品が発生し、製品の歩留まり率が悪化する。食品加工でも温度調整を微妙にコントロールすることで、最もおいしいと思える味を生み出すことができる。
現在の温度調節器(計)は、半導体技術を利用した電子式が主流となっている。機械式などに比べ、温度精度が格段に向上し、より緻密な温度制御が可能になった。
半導体の量産化などで価格が大幅に安くなったことで温度調節器(計)の単価は飛躍的に下がり、その分使用台数が増加し、市場拡大につながった。
温度調節器(計)を分類すると、汎用タイプ、警報器タイプ、エコノミータイプ、モジュールタイプ、PLCユニットタイプ、盤用ユニットタイプなどに分けられる。
汎用タイプは、高速で簡単設定、見やすい表示などが特徴で、食品機械・包装機械・成形機・半導体製造装置などの幅広い用途に対応する。警報器タイプは、過昇温防止、装置保護での異常温度監視などの用途に特化した温度警報器。
エコノミータイプは、比較的単純な機能に特化した経済性を重視した温度調節器。警報用途にも使用できる。
モジュールタイプは、いろんなタイプのアプリケーションに柔軟に対応し、思い通りの温度制御を無理なく簡単に実現する。
PLCユニットタイプは、PLCの温度調節ユニット。ユニット1台で複数の温度制御が可能。盤用ユニットタイプは、制御盤の温度の自動コントロールと、異常温度検知に使用される。
AI機能なども採用
温度調節器(計)の製品動向としては、小型軽量化、視認性や操作性の向上、ネットワーク化対応などがポイントになっている。
外形寸法は、DINサイズの96ミリ角から、48×24ミリまで各種あるが、搭載機器・装置の小型化傾向に合わせてさらなる小型・薄型化傾向が強まり、奥行き60ミリ前後の製品も増えている。
視認性では、文字が遠くからでもハッキリ確認できるように10ミリ前後の大型化傾向が目立つ。文字色も赤、緑、白など各社が独自の特色を打ち出している。
表示素子はLED表示が多く、高輝度LEDバックライトによる鮮明な表示器を搭載、グラフやメッセージなどの表示が容易になる。11セグメントでキャラクタ表示が分かりやすいタイプや表示色も赤、緑、黄などカラフルになっており、高輝度の白色表示仕様タイプもある。
LCDも、消費電力が低いことに加え、アルファベット表示機能、制御設定値やパラメータ設定、出力値アナログバー、偏差値トレンド記録表示、偏差アナログバー表示などや、5桁3段の表示も可能になるなど表示情報量の増大に対応できる点などが、ユーザーの評価を得ている。当然のことながら、LCDの測定値表示色を正常時と警報時で変えることで、一目瞭然の視認性を実現している機種もある。LCDの表示素子も明るくなってきており、ユーザーはLEDとニーズによって使い分けをしている。
高速高精度な処理ニーズに対しては各メーカーとも、独自の特徴を出したアルゴリズムで制御技術をアピールしている。
中でもAI機能を搭載することで、熟練者の温度制御ノウハウを自動的に実現できる製品が注目されている。成型や包装機械などで、生産品目ごとの調整を簡単に実現できる効果がある。常に一定の制御が実現できることで、不良品の発生抑制や生産効率の向上が期待できる。今後さらに微妙な温度制御においてもAI技術が発揮できる状況が生まれてきそうだ。
「RSS(ランプ・ソーク・スタビライザ)機能」は、ランプ制御開始時の追従性向上とソーク制御移行時のオーバーシュート抑制を同時に行うことで、プログラムの制御性を一段と向上させている。高速に変化するプロセス量の制御(高速制御仕様)から、安定性を追求した制御(高分解能制御仕様)まで対応でき、使用の制御系に最適な制御仕様に切り替えて使用できる。
ヘルスインデックスという新しい機能も登場している。調節計本来の制御演算機能が扱う制御出力などを利用し、モデルリファレンス(基準値を参照すること)により、制御ループの健全性を数値化した診断パラメータで、生産設備や製造装置の故障予知や検知として利用できるもので、生産性、歩留まりを向上させるうえで重要な装置の故障を未然に防止する予防保全が容易に実現できるという効果につながる。
操作性では、ダイレクト操作が可能なキーの搭載や、サポートソフトウエアの充実などが進んでいる。保守の簡単化のために、長寿命のリレー出力により、メンテナンスサイクルの長期化や、予防保全をサポートする制御出力のON/OFF回数のカウント機能などを備えている。
進むネットワーク対応
また、PLCのラダーシーケンス制御機能を温度調節器(計)に内蔵した機種もある。タイマー、リレーなどが不要になりコスト削減になるほか、配線工数やスペースの削減にもつながる。ユーザーのカスタマイズ仕様のニーズにも柔軟に対応できることになる。当然のことながら、PLCでもI/Oモジュールのひとつとして温度調節機能内蔵タイプも増えている。
温度データなどの収集やコピーなどを容易にできるように前面ローダに通信ポートを装備した製品が一般化している。盤面に取り付けた状態でパソコンやUSBと接続してデータの管理が行えることで、エンジニアリング時などでの使いやすさがさらに高まる。
制御盤などのキャビネット用の盤用温度調節器も増えている。取り付け金具を用いなくてもDINレール、基板に取り付け可能なタイプがあり、外形サイズがコンパクトになっている。
そのほか、水のかかる用途やほこりの多い場所での使用では、防塵防水機能も重要になる。IP66の前面パネル防塵防水機能の対応や、海外輸出機器に使えるように各種海外規格の取得も一般化している。
節電・省エネ対応が重要視される中、温度調節器(計)を使用する工業炉や食品機械などでは、遠隔監視、銘柄監視、予熱管理、待機電力削減などの対策から通信ネットワークの利用が増えている。各種フィールドネットワークの通信プロトコルとプログラムレスでPLCなどと簡単に接続できることで、オープンなネットワーク環境で、温度調節器(計)間の通信や協調運転などが容易に実現できる。
フィールドネットワークへの対応は、省エネ対策にも貢献するとして注目されている。
夜間や昼間など、機械・装置が休んでいるときの待機電力の削減にも効果が期待でき、さらに赤外線通信で簡単にセットアップでき、各種パラメータの読み書きやCAV形式でファイルの保存などが可能なタイプや、光通信タイプ、温調ボードとシーケンス制御・プロセス制御を組み合わせたシステムボードなどもあり、温度調節器(計)のパラメータ設定や管理などをパソコンで行うこともできるようになっている。
温度調節器(計)の選定を容易にするため、アプリケーションの違いで入力センサが異なる場合でも対応が容易なマルチ入力機能や、各国の船舶規格に対応するなどグローバルなサポートサービス体制の強化も充実されつつある。
国際的に日本メーカーが高い競争力を発揮している温度調節器(計)市場は、半導体をはじめとして電子部品技術力と一体となって、さらなる飛躍につなげようとしている。