若手技術者の成長を許容できる中堅技術者を生み出すには
管理職の方から見てなかなか中堅技術者を上回る若手技術者が出てこないと感じることはないでしょうか。
これは若手技術者を主に指導する中堅技術者が、基本的なことを教える一方、それ以上のことに対しては積極的に教えることは少なく、また自分を上回りそうになると力で押さえつけようとする、という散見される状況が一因のようです。
もちろん中には積極的に指導を行い、自分を上回る技術者を育てたい、という度量のある技術者の方もいらっしゃいますが、いずれにしても企業によっては上述の状況が現場で起こっているのは事実です。
■若手技術者を指導する中堅技術者の葛藤
上記の状況が好ましくないのは明白であり、多くの場合、中堅技術者もそれを自覚しています。しかし残念ながら技術者は「専門性至上主義」にとらわれているため、どうしても自分を上回ることを快く思えないのです。
特に知識的な部分で自分より年少の技術者に先を行かれるのは、自らの存在価値が低減する、ということに近い感覚で危機感さえ持つはずです。中堅技術者も自らの主軸となるあるべき姿が明確になり、それに向かってどのように進むべきかがわかることで、専門性至上主義を克服できれば問題ありませんが、そうでない場合は自分より年少の人間が自分の前にいることは許せない、というのが本音だと思います。
■若手、中堅が中心となった勉強会
技術者指導者層にいる中堅技術者が専門性至上主義にとらわれている状況で、若手技術者の力を引き出すにはどうしたらいいでしょうか。この時に取り組んでいただきたいものの一つに、若手、中堅が中心となった勉強会です。ここでは管理職以上の方は関わらないというのが重要です。
若手中堅技術者を指導する側の中堅技術者が講師となり、何らかの知見に対する解説をしてもらいます。ポイントは中堅技術者が知見を教示する「講師」の立場に固執しないこと。あるテーマについて中堅技術者が説明した後はコーディネーターとして若手技術者と同じ席につき、オープンな議論をしてもらうのです。
中堅技術者も自信のあるテーマなので、堂々と受け答えができるでしょう。それをみた若手技術者は、指導者層である中堅技術者に対する信頼を持てるようになります。なぜならば若手技術者ほど専門性至上主義のウェイトが大きく、自分より知っている、という相手に対して敬意をいだくケースが多いからです。そして敬意をいだかれた指導者層は、若手技術者に対する信頼を持てるようになります。自分の知っていることに対して敬意を持たれることこそ、技術者が信頼を構築する最短の道です。
ここでいう信頼は仲間としての信頼というよりも、この若手にすべてを教えてもいいだろう、という信頼です。この中堅技術者の若手技術者にすべてを伝えてもいいだろう、という信頼こそが、「自分を上回る若手技術者を許容する」という心理に直結することになります。
なぜならば、若手技術者に勉強会の内容については自分は明らかに若手技術者の優位に立てた、という自信に由来する余裕を持てるからです。この余裕こそが若手技術者の大いなる成長を許容する気持ちへとつながっていきます。
■若手技術者の成長に複雑な気持ちをいだく中堅技術者
中堅技術者たちの気持ちを早く楽にするためにも、若手と中堅の間での勉強会の時間を作り、中堅を上回る若手が出てくるような土壌を醸成することを心がけてください。
◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社代表取締役社長、福井大学非常勤講師
FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、並びに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。