【提言】製造現場を活かす「ボトムアップIoT」シリーズ① 中小製造業の成功シナリオ検証〜日本の製造業再起動に向けて(40)

第4次産業革命による産業構造変化は、中小製造業にとっても大きな関心事である。今回から「中小製造業のIoT成功事例」を検証しながら、中小製造業におけるIoT実践のシナリオのテーマを連載する。

 

インダストリー4.0が数年前より話題となり、多くのインダストリー4.0の解説や日本のものづくりへの警鐘とデジタル化への必要性が論じられてきたが、中小製造業にとっては「絵空事」との指摘も多く、具体的な実践に踏み切れていない企業も数多く存在する。しかし、シートメタル業界の中小企業や町工場では、積極的なデジタル革命を実践し、大きな成果を上げる企業が出てきた。

シートメタル業界とは、配電盤・航空機器・通信機器・自動販売機・医療機器など多業種に渡る製品の筐体(きょうたい)を製造する業界であり、薄板から中厚板までの鉄板を使って、鉄板に穴を開け、折り曲げて、複数の部品を組み合わせながら「外装BOX」に仕上げるのを「板金加工」、もしくは「シートメタル加工」と呼んでいる。シートメタル業界は、マイナーな業界ではあるが、日本では2万社に及ぶ製造工場が存在する。業界を支える企業群は、中小製造業が主体であり、一般的には町工場が多く、社員数人から数十人の小規模企業が中心である。

 

まずはじめに、シートメタル業界の特徴を解説すると、最初に挙げられるのは「多品種少量生産と短納期要求の厳しさ」である。業界全体での海外シフト比率は、他と比べると圧倒的に少なく、依然として熟練工を必要とする国内拠点型の業界である。実加工よりも内段取りや外段取りに膨大な時間がとられることを余儀なくされていることが、大きな改善テーマとなっており、デジタル化・IoT化への期待も大きい。

また一方では、シートメタル加工は複数の工程を必要とし、工程ごとの高価な機械や設備の導入が必須なので、設備投資のための膨大な資金が必要である。最近では設備投資のトレンドが、さらに資金を必要とする「自動化指向」に大きくシフトしている。低価格小型機への需要が減少する一方で、業界では1億円を超える自動化システムが飛ぶように売れている。レーザー加工とパンチ加工の両方が使える複合機の自動化システムは2億円を超え、かつては熟練工依存の人海戦術であったベンディング(曲げ加工)マシンも、ロボット化の登場で1億円を超える。

これらの積極的な高額投資のトレンドを牽引しているのは、業界2万社の中のほんの5%(1000社)未満であると言われている。年商10億円超企業は、全体の2%にも満たないが、猛烈に成長する企業群も合わせ、約1000社(全体の5%)の企業群が積極的な機械設備投資による業容拡大競争を行っている。投資意欲が旺盛なビラミッド頂点層1000社(5%)と、機械投資に消極的な1万9000社(95%)が明確に分かれている。

しかしIoT投資の観点となると、ずいぶん景色が変わる。シートメタル業界では、年商2億円から10億円までの中間層が最も厚く、その数は約8000社(40%)にも上り、この中間層の中でも、機械投資よりもIoT投資に強い関心を示す企業があり、ピラミッド頂点層1000社に加え、中間層8000社の中からも「IoT成功事例」が誕生している。中間層がIoTを武器に発展し、ピラミット頂点層に到達した企業も誕生している。

 

今回は、年商2億円から10億円までの中間層とよばれる企業群での『IoT成功事例』に焦点を当て、その成功シナリオを解析してみたい。中間層の最大の武器は「身の軽さ」である。IoT投資には、企業トップの英断と実行指導力が強く求められるが、大企業ではなかなか難しい「スピード感」を備えているのが中間層である。IoT投資の決断はトップの意向。『やると決めたらやる!』といったトップの強い意志が必要であり、この意志を受けて社員全員がIoT導入を受け入れる土壌が生まれる。成功シナリオの第1条件である。

成功シナリオの第2条件は、「情報の一元管理」と「情報の5S化」の実行である。IoTを成功させるためには、現在バラバラになっている各種情報やデータを一元管理し、情報を整理整頓する「情報の5S化」が必須であるが、この作業に真っ向から取り組んだ企業が成功している。中間層は、企業規模からこの取り組みには極めて有利である。

成功シナリオの第3条件は、製造現場担当者の積極的参加である。現場担当者は多くの製造ノウハウを所有しており、このノウハウを破壊して中小製造業のIoTは成立しない。しかし、世間に存在する多くのソリューションは、大企業向けの思想が主流を占めており、中小製造業が長年に亘って構築してきた仕組みやノウハウを大切に扱うシステムはほとんど存在しない。この点は、導入システム選定において、非常に注意深く検討すべき点である。

 

世間に存在するソリューションは、「トップダウンIoT」であり、『新しいシステムに現場は従え!』とのコンセプトが含まれている。中小製造業でのIoT成功企業は、例外なく製造現場を活かす「ボトムアップIoT」を実践した企業である。中間層は予算規模の制限から、数千万円もする「トップダウンIoT」を導入しなかったことが、かえって成功を導く結果となっている。

IoT成功事例から浮き彫りになったことは、企業トップの力強い推進力により、製造現場を活かす「ボトムアップIoT」を実行する事である。

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。

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