熱戦が続くサッカーのロシアワールドカップ。選手の戦う姿や応援している国の勝敗に目を奪われがちだが、その一方で、今大会ではサッカーの歴史上とても大きな決断が下されていたことは見逃せない。それがワールドカップ初のビデオ判定となる「VAR」の導入だ。VARはビデオアシスタントレフェリーの略で、その名の通りビデオ判定で主審をアシストする。別室で複数の人が映像を見てプレーをチェックしていて、そこで得た情報を主審に伝える。ロシア大会では審判1人とアシスタントレフェリー3人、リプレイ画像を確認するオペレーター4人がチェックしているという。
▼ビデオ判定の是非について、スピード感が失われる、人間が審判を務め、そこで生まれるグレーゾーンがあってこそのサッカーであるという意見が根強く、VARなどテクノロジーの導入はサッカー文化を破壊しかねないと懸念されていた。しかし最終的にはうまいところに落ち着いた。判定を下すのは主審と線審、つまりはフィールド上にいる人間に与えられた資格であり、テクノロジーが判定を下すことを許さなかった。レフェリーというサッカー判定のスペシャリスト、いわば技能者、匠にテクノロジーという力を加えたことで、サッカーの文化を支える「人」の部分は失わず、より面白く、魅力的になった。
▼製造業でもIoTやAI、ロボットという新しい技術が登場している。それらの活用について、多くは技能者や匠の技をいかに次世代に継承するかにフォーカスが当たっているが、彼らが新しい何かを生み出す、より質を上げるためにテクノロジーを使ったらどうなるだろう? より技術は磨かれ、製品が魅力的になるのは間違いない。いま必要なのは攻める姿勢。攻めの技術活用にもっと光が当たっても良い。技能者、匠もテクノロジーを活用して新しいものを生み出すチャレンジをし、もう一花咲かせることに期待したい。