~レーダ、カメラ、LiDARのセンサフュージョンが進展しクルマ一台当たりの搭載個数が拡大~
矢野経済研究所は、ADAS/自動運転用キーデバイス・コンポーネントの世界市場の調査を実施し、ADAS/自動運転で搭載されているセンサの市場概況、技術動向、個別メーカの事業戦略を明らかにし、2030年までの世界市場規模をセンサ種類別に予測した。
▼ADAS/自動運転用センサの世界市場規模予測
1.市場概況
2017年におけるADAS(先進運転支援システム)/自動運転用センサの世界市場規模は8,959憶1,800万円に達しており、拡大基調が続いている。
日米欧において2016年から2017年にかけてAEB(自動緊急ブレーキ)の標準搭載が進んでおり、日欧のNCAP(新車アセスメントプログラム)に対応するために車両だけでなく、歩行者保護のためのAEBの採用も増加傾向にある。
このため、車両の前方を検知する77GHzミリ波レーダ、センシングカメラの出荷数量が拡大しており、2017年におけるレーダの世界市場規模は3,969憶800万円、カメラは4,458憶6,000万円であった(レーダは77GHzミリ波と24GHz準ミリ波レーダ、カメラはセンシングとリア/サラウンドビューカメラを含む)。
さらに、2015年のTESLA Model Sから実用化が始まったレベル2(部分的自動運転)の採用車種は2017年に増加し、車両前後のコーナー(角)付近に搭載される検知距離が100m以下の短距離レーダの市場も立ち上がっている。
今後はレベル2の高級車を中心に需要拡大が期待出来るため、新規参入メーカも増える傾向にある。また、駐車支援、誤発進防止システムなどで必要となる超音波センサの世界市場規模は2017年で506憶1,600万円、レーザについては低コストの赤外線レーザが中心で25憶3,400万円であった。
2.注目トピック
自動運転のレベル別センサの搭載動向
ADAS/自動運転用センサは、実現する自動運転のレベルに応じて搭載するセンサの種類や個数が異なり、2020年以降はレベル3以上の実用化に向けてセンサの技術革新とコストダウンが進む。
レベル1(運転支援)、レベル2(部分的自動運転)については、カメラとミリ波レーダを中心に構成されておりフロントに各1個搭載される。レベル2ではドライバー監視下で渋滞運転支援機能や自動車線変更などの部分的自動運転機能を実現するために、フロントに加えて、前後左右の角付近に短距離ミリ波レーダが各1個(合計4個)搭載される車両も増える。
レベル3(条件付自動運転)、レベル4,5(完全自動運転)になると、高速道路・一般道をシステムが判断して自動走行する(レベル3はシステムが走行不能の場合はドライバーが運転を担当)。このため、ミリ波レーダ、カメラの他に、LiDAR(Laser Imaging Detection and Ranging:レーザスキャナ)の搭載を検討している自動車メーカが多い。
2017年10月に発売されたAudi A8はフロントにLiDAR(メカ式)を搭載しており、レーダ、カメラ、LiDARの検出原理の異なる3種類のセンサをフュージョン(連携)させることでロバスト(堅牢)性を高め、高速道路の同一車線上におけるレベル3の自動運転機能を実現可能とする。
ただし、現状のメカ式LiDARは可動部を持つためにコスト、サイズの観点から搭載出来るのは高級車に限定される。このため可動部を持たないソリッドステート型LiDARの研究・開発が進展しており、それらの製品投入が活発化するのが2023年頃である。
このため、2023年から2025年にかけてソリッドステート型LiDARの市場が立ち上がり、側面や後方検知への採用が広がる。
また、2021年以降にCMOSプロセスを採用した低コスト・小型のミリ波レーダの量産化が本格化するために、レベル3以上の自動運転のレーダの搭載個数は8~10個まで増加する。さらにカメラについては高画素化が進み、2020年で200万画素以上のCMOSセンサの採用が進む。
カメラ中心でセンサ構成を考えている自動車メーカもあり、レベル3以上の自動運転車におけるカメラの搭載個数は最大8個必要となる。
レベル4,5が中心となる商用車については、車両デザインでの制約が少ないために搭載スペースの自由度が高く、コストの観点でも余裕があるために、メカ式LiDARが2020年頃から複数個搭載される。高画素のカメラ、ミリ波レーダなどもフュージョンされるために、車両一台当たりのセンサ搭載個数は20個に達する。
3.将来展望
2020年に向けてAEBなどのADAS装着率は日米欧で上昇し、前方検知で必要となるレーダとカメラの標準化が進む。また、各国NCAP(新車アセスメントプログラム)では運転支援系評価項目の多様化が進み、特にユーロNCAPでは後退時AEB(歩行者)、交差点AEB(四輪車、二輪車、歩行者、自転車)の評価項目が追加され、ステアリングの自動操舵による衝突回避も2021年以降に計画されている。
このため、フロント検知用77GHzミリ波レーダ、センシングカメラの高性能・多機能化が進む。日本では高齢者ドライバーをはじめ、アクセルとブレーキの踏み間違い事故が問題となっている。
このため、駐停車時の踏み間違い事故を防止するために、超音波センサによるAEBの標準化が進む。
2020年におけるADAS/自動運転用センサの世界市場規模は1兆6,688億1,000万円、センサ別の内訳はレーダ7,692憶8,500万円、カメラ8,132憶8,000万円、超音波センサ838憶500万円、レーザ/LiDAR24億4,000万円を予測する(レーザ/LiDARは低価格の赤外線レーザが中心)。
2021年以降については、高速道路上におけるレベル2の自動運転機能の採用が日米欧の主要自動車メーカを中心に進み、車両一台当たりのセンサ搭載個数が増加するために、2025年の世界市場規模は2兆9,958億5,500万円を予測する。
2025年以降はレベル3(条件付き自動運転)の高級車、MaaS(Mobility as a Service)※向け商用車の市場も本格的に立ち上がるためにLiDARの需要も拡大し、2030年のADAS/自動運転用センサの世界市場規模は3兆2,755億2,700万円に達すると予測する。
レーダと超音波センサは出荷数量は拡大するが、コストダウンが進むために市場規模は2025年よりも縮小し、それぞれ1兆3,914億9,000万円、904億6,200万円とみる。カメラはセンシングカメラ、ビューカメラともに搭載率が上昇し、多機能・高画素化が進むが、コストダウンが小幅であることから、世界市場規模は1兆2,976億7,500万円に拡大するとみる。
レーザ/LiDARはレベル3以上の自動運転車の増加に比例して出荷数量は推移し、2030年の世界市場規模は4,959憶円を予測する。
※MaaS(Mobility as a Service)とは、車を利活用することで利益を出すビジネスモデルをさし、ライドシェアやカーシェアリングなどのサービスが該当する
調査要綱
1.調査期間: 2017年8月~2018年5月
2.調査対象: 自動車メーカ、カーエレクトロニクスメーカ、半導体メーカ、センサメーカ
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談、電話・e-mailによるヒアリング、ならびに文献調査併用