市場見る視野の拡大を ニーズと付加価値 双方の強みを生かす
アメリカの心理学者マズローが唱えた「マズローの欲求5段階説」はあまりにも有名である。人は欲求によって行動する。その欲求は5層のピラミッドのように構成されている。低階層の欲求が満たされると、より高階層の欲求を欲するというものである。人の欲求が低層から順に高層へと向かうかどうかは別にしても、人の欲求は経済活動と大いに関係を持つ。経済活動を先導していくようなマーケティングは、端的に言ってしまえば人が息づく市場(マーケット)とともに歩むと言うことができる。
国家が豊かになり成熟度を増せば増すほど、製品やサービスに対する個人的欲求は感情的充足から精神的充足へ向かう。また市民として社会的価値の充足を求めるようになるという。こうした流れを捕らえるのが消費市場マーケティングである。電気部品や機器営業が主戦場とする業務・産業市場は、一般消費市場とリンクはしているがマーケティングの流れは少し違う。この市場を構成するのが一般市民ではなく法人であり、法人で働く人であるからだ。
業務・産業市場で起こる欲求のことを「ニーズ(needs)」という。このニーズを見つけて商品化したり、ニーズの先にある「シーズ(seeds)」を探求し電気部品や機器等の研究開発のテーマを見つけたりするのが業務・産業市場のマーケティング活動である。この市場のニーズを商品化するに際しては、厳しい仕様を満足させなければならない。
かつて、汎用品の品ぞろえが現在ほど充実していなかった時代に、顧客と取り交わす仕様書が大繁盛していた。顧客の製品設計時に部品や機器の仕様を綿密に打ち合わせ、仕様書を作成した。その上でお互いが承認印を押して保管し、一朝ことが起こった時に、この仕様書の出番となっていたのだ。かなりの数の仕様書が保管されていた。
現在では豊富な汎用品がカタログ化されている。技術者はカタログの仕様を見て選定するケースがほとんどである。しかしかつてのような仕様書の承認交換がなくても、顧客のニーズを充足するベースには顧客の仕様値の満足があることに変わりはない。
現在の営業は顧客との綿密な仕様打ち合わせが少なくなったせいか、新商品を売り込む折、積極的に顧客の製品仕様を聞き出さなくなった。顧客の製品仕様には背景がある。その背景が顧客のニーズの方向を示している。したがって営業は商談となる案件が発生したら、製品仕様をよく聞くことによって顧客が一体何を求めているかという情報が取れる。例えばそれは安全性か、メンテ性か、環境性か、寿命性か、超低コスト性か、新しい情報化なのか-などのことがわかる。
いずれにしても法人のニーズの背景には付加価値があることがわかる。一般消費市場のマーケティング活動は人の欲求と大いに関係を持っているが、業務・産業市場のマーケティング活動は付加価値と大いに関係を持っている。
企業の求める付加価値の方向を、メーカー営業は顧客の仕様面から捕らえるのが得意のはずである。
一方、販売店営業は商品ではなく顧客が命である。だから顧客自体に興味を持って、顧客の小さな変化は大きな情報だという感性を身につけてニーズを先取りすることを得意にできるはずだ。
現在のディーラーヘルプ活動は、双方の強みを理解していないから同じ販売活動となっている。双方が同じ販売戦法を取って市場に攻め込めば二倍の力になった時代は終わった。現状は情報化ということだけでなく、従来の延長からずれている時代だ。こういう時は市場を見る視野というものを広げる時だから、ディーラーヘルプ活動をそれぞれの強みを生かした活動にすべきなのだ。