【提言】製造現場を活かす「ボトムアップIoT」シリーズ② 中小製造業のIoT成功シナリオ検証〜日本の製造業再起動に向けて(41)

第4次産業革命による産業構造変化は、日本の製造業に大きな潮流の変化を及ぼしている。好むと好まざるとにかかわらず、中小製造業にも津波のようにIoTの波が押し寄せている。経営者や幹部社員が、この潮流に耳をふさぎ、目を閉じては『茹でカエル』。知らぬ間に企業が衰退するのは避けられない。

『中小製造業のIoT成功シナリオ』連続シリーズとして、中小製造業でのIoT成功事例を基に、IoT実践のシナリオを連載しているが、今回はその第2回目「ボトムアップIoT」の意義を紹介する。

 

インダストリー4.0が数年前より話題となり、多くのインダストリー4.0解説や日本製造業への警鐘・日本の周回遅れの現実などが論じられ、中小製造企業においてもその必要性を認識する経営者が増え、具体的な導入検討も活発になってきたが、なかなか満足が得られるシステムに巡り合う事ができず悩んでいる経営者も多い。

この原因を紐解くには、インダストリー4.0を提唱したドイツと日本との国民的哲学の違いを論じなければならない。哲学と言っては大げさに聞こえるが、ドイツ人と日本人の考え方の違いを知ることが、意外にも『中小製造業IoT成功事例』の本質を知るカギとなる。

かつてより世間では、ドイツ人と日本人は勤勉な国民であり、「ドイツと日本は、非常によく似た国民性を持っている」と言われることが多かった。今日でも、多くの日本人は『ドイツのものづくり』を尊敬し、マイスター制度などを日本の職人と同一視し(相当の勘違いである)、国民性が几帳面で日本人に通じるので、ドイツ人は『日本人と一緒だ!』といった評価感(これも相当の勘違い)を持っている。

ドイツに長く住んで、ドイツ人やドイツ製造業と長く親交をもつ日本人なら、例外なく「ドイツ人は日本人とは違う」と答えるであろう。ドイツも日本と同様に『ものづくり大国』であり、ものづくりの遺伝子を持つ優秀な国民であることに疑いの余地はない。しかし、意外にもドイツ人の正体は『日本人とは違う価値観と哲学を持つ国民』なのである。

 

ものづくり観点においても、ドイツと日本は全く違うので、ドイツ人が提唱する「インダストリー4.0」の論理をそのまま日本の中小製造業に持ち込んでも、定着するには無理がある。しかし、残念なことに、日本にある数多くの製造業向けのIoTシステムの大半は、ドイツ思想の基で設計されている。特に生産管理システムはドイツ発祥の代表作であり、日本の中小製造業に汎用生産管理パッケージが馴染まないのも当然である。

では、ドイツと日本はなにが違うのか?

そのキーワードは『トップダウンIoT』と『ボトムアップIoT』の違いである。ドイツは、明らかに『トップダウンIoT』思想で成り立っている。『トップダウンIoT』とは、未来に向かう理想的なシステム構想を(机上で)練り上げ、それに従った新たなシステムを(新技術で)ゼロから構築し、各企業に導入しようとする考え方であり、極めて長期視点に立った戦略的な考え方である。

ドイツのインダストリー4.0の根底には、新システム導入の際には、製造現場の現状は考慮せず『製造現場は新システムを受け入れる』という思想がある。製造現場の現状破壊を容認する破壊的イノベーションが『トップダウンIoT』である。

 

インダストリー4.0では、顧客要求を錦の御旗として『一個生産体制』を標榜している。この実現のために、企業の独自色や差別化技術を無視し『つながる工場』として、全体最適を徹底追求する戦略的かつ合理的なドイツ哲学が『トップダウンIoT』の真髄である。

われわれ日本人が『トップダウンIoT』を受け入れるのは容易ではない。この考えは、町工場の個々のノウハウと差別化を無視したものであり、裾野の町工場には金太郎飴経営が強いられる。われわれ日本人にとっては、江戸時代から脈々と続く『日本のものづくり』を否定する哲学である。

日本のものづくりは歴史的に、常に顧客の要望に応える『マーケットイン』であった。ものづくりの職人は、顧客の近くで常に顧客に寄り添い、顧客満足を追求しつつ、独自技術を育んできたのである。日本の中小製造業には、歴史的に続く職人気質が脈々と生き永らえており、これが日本のものづくりの魂(たましい)でもある。

 

少子高齢化で『職人ノウハウに依存したものづくり』が変革の時期を迎えており、この対応を誤れば『茹でカエル』は必須であり、デジタル化・IoT化は企業の生き残り条件にもなってくる。この実現には、製造現場の『ものづくりノウハウ』の継承も重要である。

ドイツに習って製造現場を破壊するイノベーションを推進しても、日本での成功は難しい。インダストリー4.0をいくら勉強しても、日本で通用しないのは、哲学が違うからである。

製造現場のノウハウや仕事の流れ(業務フロー)を壊すことなく、既に設備した機械やシステムを最大活用し、IoTによる飛躍的発展を『ボトムアップIoT』と呼ぶ。日本の中小製造業のIoT成功事例は、例外なく『ボトムアップIoT』を実証している。『ボトムアップIoT』を推進するIT企業は稀であるが、当社アルファTKGは『ボトムアップIoT』をポリシーとして中小製造業のIoTに貢献していく所存である。

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた

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