若き営業マンの育成 実践トレも一つの手法
昔から営業には経験が必要だと言われてきた。どんな仕事でも経験は必要なのだが、特に営業という職業が経験を重視しているのは営業の相手は人だからである。
営業の本分は情報を取ることである。その情報を元にして物やサービスを売っていくのが営業である。情報を入手する相手は人であり、人は千差万別である。どのようにアプローチしたら、どのように話を持っていったら情報が取れるのかというマニュアルはつくれない。と言って若き営業マンを野放しにして経験を積ませることは、現在の状況では無謀である。
そこでこれまでの営業の先人たちの経験を集めて教材をつくり、営業研修の一助にしてきた。営業研修のない販売店もあるが、若き新人に先輩営業マンと客先同行という経験をさせて営業の何たるかを教えてきた。営業研修や先輩との客先同行という経験が若き新人営業の第一歩となる。その第一歩が意外と後年まで跡を残すことになる。
新人はまず無我夢中で営業を覚えようとする。研修の先生の教えを聞き、先輩の一挙一動を見て、営業の仕事は顧客からの依頼をどのように処理すればいいかを覚えていく。これらの一連の動き方を一定期間経験すると、新人は無我夢中さから解放されて自分なりに営業を理解し落ち着いてくる。実はここから大事な第一歩が始まる。
ある程度の受け答え、営業事務処理ができていると判断されると、客先や地域の担当を持つことになる。かつて担当させる顧客が少なかった時代に、地域担当として一地域を任された。その地域の見込み客を自分の顧客にするため、まず見込み客の選定、訪問計画などをつくり、行動を開始した。
見込み客へのアプローチの仕方も先輩は一応見本を見せてくれていたが、一人で経験したことがない新人は、その難しさに悩み、精神的苦労を重ねることになった。そしてそのうちに自分独自のアプローチの仕方を覚えた。こうした経験に耐えて、新人は一応会社が扱う部品や機器の売り方が身についていく。
一方、昨今は一般的になっているが、新人には営業しやすい顧客を担当させる方法がある。その後の新人教育は商品研修が主となり、商品のイロハを身につけることによって売り上げを上げてくれることを期待する。そして徐々に担当を増やし、一人前の営業となっていく。
この両者の違いは、顧客不足と顧客はあるが複雑な商品群が増え、商品に関する知識不足という背景によるものだ。前者の顧客不足から出発した営業は、新しく会う客先へのアプローチが苦にならない営業に育つ。後者は商品的知識をもっぱら武器にして商談を勝ち取ってきた経験から、商品でのアプローチはうまいが商品が合わない見込み客を顧客にはできない。
現代の販売店でも新人を採用した際にどちらかの育成方法をとっている。今世紀に入って、製品も製造も情報化の影響を受け、新しい産業や新しい製造が増えている。それでも企業力のある販売店は、後者のやり方で育てた営業に新しい見込み客へのアプローチをさせられる。なぜなら新たな市場に対する商品を次々と扱うだけの力があるからだ。したがって、従来客から徐々に新しい客への移動は難しくない。
企業力の弱い販売店は、従来商品には強くても変わりつつある見込み客にはアプローチが難しい。商材を唯一の武器としてやってきた販売店の市場対応力の差が広がっていく。企業力の弱い販売店も見込み客へのアプローチを変えればいいのだが、新人時代からの営業をそう簡単に変えられない。
それならスポーツの世界でもあるように、苦労を重ねてアプローチ力をつくってきた営業にコーチを頼み、実践トレーニングを積ませることが一つの方法である。