中国工場の良し悪しはトップの方針・考え方で決まる 中編(全3回)
〜いらぬ心配が生産力低下に〜
中国の工場運営において、そのトップの方針や考え方は非常に重要です。日本の中小企業を見てみると、社長の方針や考え方がそのまま会社の方針や考え方となっています。実は中国の工場というのは、日本の中小企業の形態と類似している点が非常に多く、工場の規模に関わらず中小企業そのものと言っても過言ではありません。中国工場におけるトップの影響力についてご紹介します。
ここでトップの方針や考え方が工場運営に大きく影響した事例を2つ紹介したいと思います。よくなかった事例とよかった事例をひとつずつ紹介します。
まずよくなかった事例です。
ある日系の会社です。もともとシンセンに工場を持っていましたが、業容が拡大したのでシンセンの別の地区に新しい工場を立ち上げました。新工場の工場長には、香港でその製品の顧客対応をしていた日本人駐在員を当てました。その製品の技術的なことも顧客が求めていることもわかっているので適任と考えたわけです。
その新工場が立ち上がって1年弱のときにわたしがその工場を訪問する機会がありました。
工場を一通り見せていただくと「あれっ」と思うことに気が付きました。何に気が付いたかと言いますと、作業者が時間中にも関わらずトイレに行くのが目についたのです。それもしばらく見ていると1人や2人ではないのです。
「あれっ」と思って工場長に聞きました。
わたし「作業者が時間中に何人もトイレに行っていますがいいのですか?」
工場長「いやいいんです。うちは時間中に作業者がトイレに行くことを認めています。」
わたし「えっ、それってどうしてですか?」
工場長「……」
工場長は口ごもって認めている理由を教えてくれませんでした。その後周りからいろいろと聞き込んでいくうちに認めている理由がわかってきました。
実はこの工場では、ある特殊な作業をするので、採用した作業者をすぐに現場に出すことができないのです。ある期間、教育をして一定のレベルになった作業者だけが現場で作業することができるのです。
工場長はどうもこのように考えていたようでした。
「時間をかけて教育をしてやっと現場に出せるようになった作業者を、規律を厳しくして辞められたら困る」と。
でもこれはいらぬ心配です。作業時間中にトイレに行ってよい工場などありません。基本的には休憩時間中にトイレに行くことになっているはずです。他の工場で働いた経験のある作業者であれば、それは当たり前だと思っているはずです。また、新卒で採用した作業者であれば、最初に教育してそれが当たり前として刷り込むことで問題はありません。
ところが、この新工場では午前1回、午後1回時間中にトイレに行ってよいことにしていたのです。機転の利く作業者は、この決まりを利用して午前と午後にトイレ休憩を取るようになっていたのです。
それを時間に換算すると、1回のトイレ休憩を5分として、2回で10分、これを100人の作業者が使ったとすると1000分、なんと1日で約16時間もの作業時間が減っていることになります。月間、年間にしたらとんでもない時間になります。
また、この時間中のトイレを認めたことで、この新工場全体が時間にルーズな工場になっていました。前述の例で出したように、始業のベルが鳴っても作業者がまだ更衣室にいるなどは当たり前で、昼の休憩のときなどは、休憩開始のベルが鳴る前に作業者が席を立って食堂に向かっているようなありさまでした。
工場長のいらぬ心配が招いた結果です。
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◆根本 隆吉
KPIマネジメント代表・チーフコンサルタント。電機系メーカーにて技術部門、資材部門を経て香港・中国に駐在。現地においては、購入部材の品質管理責任者として購入部材仕入先品質指導および品質改善指導。延べ100社に及ぶ仕入先工場の品質改善指導に奔走。著書に「こうすれば失敗しない!中国工場の品質改善〈虎の巻〉」(日刊工業新聞社)など。