〜雷害対策機器特集〜
情報機器の普及で雷被害拡大
雷による被害を防ぐ雷害対策機器の重要性が高まっている。落雷などに弱い電子機器の普及が増えていることに加え、PV(太陽光発電)システムや風力発電など落雷を受けやすい機器・施設の増大、さらには異常気象などの要素も絡み、落雷の可能性が高まっている。
これに対し、落雷を防いだり、被害を抑えるための機器開発や対応策も進んでいる。雷被害を最小限に抑える対策には各種の方法があり、使い分けされている。
雷発生の時間、場所の予想など、雷害防止に向けた各種サービスも充実しつつあり、ハード、ソフトの両面から取り組むが進んでいる。
落雷被害の30%が8月に集中
落雷による被害は、人命や建物損傷などだけでなく、電子機器や生産ラインの故障・停止、停電や交通機関のトラブルなど社会全体に影響を及ぼし、計り知れない甚大な被害を与える。
特に昨今のコンピュータが中核となった情報化社会では、コンピュータサーバーや周辺機器、ケーブルなどの損傷で事業の継承にまで影響を与える場合もある。
昨今の通信機器デジタル化は、アナログ機器に比べて雷に弱いというデメリットがある。さまざまな通信ケーブルが張り巡らされることが増えていることで、雷の侵入経路の増加につながり、被害を受ける可能性を高くしている。
近年、ゲリラ豪雨ともいわれる激しい雷雨の頻繁な発生は、土砂災害だけでなく、雷被害も増えることになる。日本では年間100万回の落雷が発生しているといわれているが、気象官署に届けのあった落雷害数は、2005~17年の12年間で1540件で、このうち約30%(468件)が8月に集中している。
全体的には、4-10月は太平洋側、11-3月は日本海側に多く、多雨地域である北陸地方、北関東の山地、近畿地方の鈴鹿山脈、九州・日田盆地を中心とした北九州地域では、落雷も多いというデータも出ている。
また、ここ50年間の雷の発生件数を見ると、近年は増えつつある。東京地方を例にとると年間の雷発生日数は、1950年代が平均9.1日、60年代10.1日、70年代9.3日、80年代10.5日と大きな変化は見られなかったが、90年代は12.5日、10年~14年の4年間は平均では17.8日と、大幅に増えている。
落雷自体の発生件数が増えていることに加え、近年は雷の影響を受けやすい機器の増加と、屋外への設置といった雷に遭いやすい機器・システムの増加が雷害被害を増やす要因にもなっている。
前述のように、通信機器につながる機器が情報化の進展で使用が増え、電圧異常などの影響を受けやすくなっている。
さらに、PVシステムや風力発電など屋外に設置する設備数の増加や、携帯電話基地局などに代表される屋外設置の設備の増加も雷害被害を増やすことにつながっている。
直撃・誘導・逆流 適切な雷撃対応
こうした雷被害の防止を図るためにSPD(サージ防護デバイス)などの雷害対策製品の需要も増加している。
矢野経済研究所の調べによると、国内のSPDの市場規模は15年で約168億円を形成。内訳は、高圧用SPDが32億円、電源線が接続された設備機器を保護対象とした電源用SPDが58億円、通信・信号回線が接続された設備機器を保護対象とした通信用SPDが78億円となっている。
また、SPDの設置箇所は、ビル約50%、工場約20%、電源系統設備約19%、太陽光設備約4%と、ビルが半分を占めている。
落雷の被害を防ぐには、雷撃の種類に応じた対策が重要になる。雷撃の種類は大きく「直撃雷」「誘導雷」「逆流雷」の三つに分けられる。
直撃雷は一般的な落雷で、雷放電による電流の大部分が人体や建築物・樹木などを通過して、人命を奪ったり、機械設備の破壊、火災の発生など被害を及ぼす。
誘導雷は、電源線・通信線やアンテナなど雷電流からの電磁誘導によって発生する高電圧で、機器などを破壊する。おおかたの雷害は誘導雷によるもので、被害が増えている。通信設備やコンピュータなどを破壊し、電源系間で被害が及ぶことも多い。
逆流雷は、建造物への雷撃時に接地抵抗が十分な低さでないことによって、電源を供給している電源線や通信線などに雷電流の一部が逆電流となって流れるもので、山頂負荷が供給配電線などで被害が多くなる。
直撃雷には、避雷針などで構成する「外部雷保護システム」が必要で、誘導雷には磁気を遮断して対象物を保護するSPDが、逆流雷には雷撃場所の接地抵抗値を低減する耐雷トランスやクラスⅠSPDの設置が有効となる。
落雷時の電圧は、200万V~10億V、電流は1000A~50万Aにも達し、大電流自体が被害を与えるのはもちろんのこと、大電流により発生する強烈な電磁や蓄積された電荷により、電気・機械・通信設備や装置などが損傷。
さらに大電流に伴う2次的な被害が加わる。特に通信に依存する現代社会では、通信設備のダウンは、機器の損傷とは比べ物にならない程の被害をもたらす。そのため、通信設備に対してもより一層の雷害対策が求められている。
こうした落雷によって生じる火災や建物の破壊、人身被害を防ぐために、高さ20メートルを超える建築物には雷を受ける受雷部の設置が法的に義務付けられている。
雷保護システムは、直撃雷から建物や人を保護するために受雷部と引き下げ導線、接地システムからなる「外部雷保護システム」と、等電位ボンディングや安全離隔距離の確保を含む「内部雷保護システム」とで構成される。これによって、落雷を受けても雷撃電流を安全に大地に逃がすことにつながる。
また、雷保護設備への雷撃に対する保護角は、建築物の規模、高さ、周辺の地形、建築物・樹木などの有無、雷電流の大きさなどの要因で変わる。高い建築物に受電部を設置する際の雷保護方法には、「保護角による方法」と「メッシュ法」があり、単独、および組み合わせで対応している。
雷害対策機器メーカーでは、さまざまな落雷被害を想定し、系統安全、外部雷保護、内部雷保護など、それぞれの箇所で雷害対策機器・システムを用意している。
系統安全では、安全な電気の流れを制御・監視、さらに機器を点検する役目を果たす各種の機械がある。
具体的には、直流回路の地絡を検出し、極性の判別を高精度・高感度に行う直流地絡継電器や、プラグイン式の分離型直流地絡電流継電器、多回路型同継電器、回路ごとの絶縁抵抗値を計測し、同値が低下すると警報で知らせる直流回線別絶縁監視装置、直流漏電警報付き配線用ブレーカ、往復の負荷電流のわずかな差電流を検出する貫通型直流地絡変流器、作業者の安全用に交直両用検電器などの製品がある。
07年に建築設備設計基準が大幅に改定され、SPDの分電盤などへの取り付け基準が大幅に緩和された。これにより、SPDの需要が拡大し、製品単価の下落もあり雷害対策機器の普及につながっている。
建築設計基準改定に伴い、避雷器の電源用SPDにおける最大連続使用電圧量が、従来の200Vクラス対応から500Vクラス対応までに拡大された。従来250V対応機器を2台使用していたケースでは、500V対応機器1台で対応できるようになり、使用者側のコストダウンにもつながっている。
04年に電源用SPDを対象にしたJIS C5381-1が制定され、従来の保安器や避雷器、アレスタなどとよばれていた名称が統一された。
14年に制定された最新のJIS C5381-11では、多くの試験項目が決められたが、特にSPDの故障時における安全性確保が強化された。
電源用SPDは、多回数の雷電流などで、短絡方向に劣化して故障につながる恐れがあることから、短絡故障にいたる過程を各段階で再現して、安全性を確認することを求める試験が追加されている。
16年3月に発行された公共建築工事標準仕様書では、JIS C5381-11に対応した低圧SPDの使用が記載された。また、分電盤に設置するAC用SPD、接続箱に設置するPV用SPDの公称放電電流も5kV以上と記載されている。
さらに、15年8月に発行された建築設備設計基準では、SPDとの過電流協調が難しい配線遮断器の使用の必要がなくなり、SPDメーカーの指定するSPD分離器の使用が可能になったことで、SPD分離器内蔵のSPDの使用が認められた。
ハード・ソフト両面で取り組み
最近のSPDの製品傾向は、雷サージのカウント機能と、SPDの寿命を予知する機能を一体化した電源用SPDなどが開発され、小型化も進んでいる。
従来、現場での判断が難しいとされていたSPDの寿命判定機能を設けることで、効率の良いメンテナンスが可能となり、安全性と保守性双方の向上が図れる製品として注目されている。
同時に、SPDの設置場所から遠方の監視システムに故障状態を送信する故障監視機能も充実してきている。
電源用では、PVシステムや風力発電システムなどの直流(DC)機器での短絡対応として、安全側に働くフェールセーフ機能による遮断技術が求められている。クラスⅡSPDの動作状況を把握し、SPDの接地線に流れたサージ電流レベルや日時などのデータを記憶できる装置がある。
SPDは、雷サージなど過渡的な過電圧を制限し、サージ電流を分流する機能を持つ。
この製品は、雷サージ侵入の有無を把握する従来のサージカウンタとは異なり、SPDに直接接続することで詳細な劣化日時を記録・表示することができる。
電池駆動で停電時も使用でき、雷被害要因の特定や事故原因の調査、新たな雷サージ対策、SPDや設備のメンテナンスの効率化など、SPD動作の見える化を実現している。
また、SPDの劣化接点端子を接続することで、同端子が動作した時刻も記録するほか、SPDの動作頻度や状況も把握でき、太陽光発電システムや風力発電システム用、水処理施設用、データ監視、遠隔監視など、幅広い用途に採用されている。
落雷対策が各方面で進む中で、周辺のソリューションも充実しつつある。そのひとつが「落雷情報配信サービス」だ。気象情報を基に、落雷位置を検出してその情報を配信し、落雷被害を未然に防ぐ。
さらには、実際に落雷があったかどうかを調査し、「落雷証明書」を発行することもできる。また、落雷による被害レベルなどを事前にWeb上で診断できる「雷リスク診断サービス」も行われている。Webサイトからアンケートに回答するだけで、工場やビルなどの雷リスクがわかる。これに、専門の担当が現地を訪問してヒアリングしながら診断することを組み合わせることで、さらにきめ細かな対策をとることができる。
そのほか、雷害対策機器関連メーカーでは、自社で試験設備を備えてあらゆるシーンを想定した開発を進めている。
IoTへの取り組みが各方面で進む中で、その対応に比例して落雷リスクも高まるだけに、落雷対策機器の重要性と市場性が高まる。
落雷そのものは防げないだけに、雷の特性に応じながら被害を最小限に抑える取り組みが今後ますます重要になってくるといえる。