若手技術者の文章作成の癖の一つ「反復」
先日、ある新聞で「中高生の読解力 ピンチ」という記事が出ていました。これを読んだ時に、これは決して中高生だけの問題だけでなく、若手技術者の多くに当てはまることであることを強く感じました。今回のコラムでは若手技術者の読解力不足から派生する反復という癖と、その改善方法について考えてみたいと思います。
違和感のある技術文章の典型例
かつて自らの部下を指導している時はもちろん、現在も複数の顧問先で文章の添削を行いますが、主語と述語が食い違うことの多さに驚くことが多いです。そして主語と述語の食い違いから派生してよく発生する特徴的な事象があります。
技術者の事例としては技術報告書でよくある文脈の事例を考えてみたいと思います。よくある技術例文を一つ作ってみます。
「図面に記載する公差を検討した結果として、正規分布を基本とした統計学を応用して確率を算出し、その確率から±0.1ミリということが公差を検討した結果としてわかった」。
いわんとしていることはなんとなくわかりますが、違和感があるのではないかと思います。意味を変えずに私が書くであろう文章に変えると、「正規分布を基本とした統計学を用いて図面に記載する公差を検討した結果、±0.1ミリが妥当であることが判明した」となります。
若手技術者のよくある特徴を少し誇張して書いてみたのでおかしいと感じる方がいるかもしれませんが、見たことがあるような文章だ、と感じる方も多いのではないでしょうか。何が違うかわかりますでしょうか。
技術者でよくある指導方法としては、「話が回りくどくてよくわからないから直せ」「文章の意味が分からない」といった、具体性の欠けるものが多いと思います。しかも多くの場合、指導する側も忙しいため感情的に怒鳴ってしまう、または指導することさえせずに無視をする、ということが多々あります。
若手技術者の読解力を鍛えることは、文章作成力を鍛えることとほぼ同じであるため、指導する際は「ここがこのようにおかしいからこのように直した方がいい」と具体的に言えなくてはいけません。そこで、上記の例文を見た時に何を直したから読みやすくなったのか、ということをきちんと言えなくてはいけないのです。
例文でおかしかったことは何か
例文で強調したのは、「反復」という文章作成力が未熟な技術者固有の癖の一つです。直す前の例文をもう一度書いてみます。
「図面に記載する公差を検討した結果として、正規分布を基本とした統計学を応用して確率を算出し、その確率から±0.1ミリということが公差を検討した結果としてわかった」。
例えば、公差、結果という文章が前半と後半に一回ずつ出てきています。確率という単語も2回ほど出てきています。このような反復の文章を書く技術者に多く見られる思考回路は、「思ったことをそのままの順番で書く」という口語表現に起因していることが多いです。
例えば、話しながら自分の話を整理してループする、同じ話を何度もする技術者はいないでしょうか。このような型の思考回路は自ら考えたことを咀嚼することなく、そのまま口に出すというのが一つの傾向です。
ごく一部の限られたカリスマ経営者についてはこのような思考回路でもうまくいくことがありますが、一般的には打ち合わせ時間を引き延ばす元凶であるうえ、業務推進効率は低減、報告内容は支離滅裂になってしまうことが多く、生産効率が求められる昨今において喫緊の課題とも言えます。
反復の対策
では、反復の文章を書いてしまう技術者の指導はどのように行えばいいのでしょうか。
最も効果的なのは、「一度書いた文章を印刷してもう一度読み直す」ということをやらせることです。当然ながらこれには本コラムの冒頭でも話題になった読解力が必須のため、見直しさせても自分の文章の修正点が見いだせない場合もあります。このような時は細切れに見直しをさせるのがポイントです。報告書であれば目的の部分だけ、結論の部分だけ、というのが一例です。究極的には一文、一文をきちんと見直しをさせて、おかしいところがないかを確認させるということが重要です。
見直しはPC画面ではなく、紙媒体で行うというのもポイントです。一度紙に出すことで自らの文章をより客観的にみるということができるようになります。この見直しと修正作業の出だしで効率を重視する、または焦るということをしてしまうと、本来育成できる技術者も育たなくなります。粘り強く一つ一つ反復を修正するということの必要性の理解についてご参考になれば幸いです。
◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社 代表取締役社長、福井大学非常勤講師。
FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。