対人スキル向上の研修を
付加価値アップ目指して成長
「巨人の肩の上に立つ」という言葉は、科学者アイザック・ニュートンがある書簡の中で例えに用いたことで有名になったと言われる。その意味するところは、偉大な先人たちの業績を巨人に例えて、自分が新たな発見や遠くを見ることができたのは巨人の肩の上(つまり、ひとえに先人たちの研究や業績の積み重ねの上)に立って見たからだということである。
科学技術の分野では発見・発明を動かしがたい事実として学び、その事実を土台にしてさらに研究を重ねて新たな発見・発明ということを繰り返して現在の科学文明社会をつくってきた。
営業の分野はどうだろうか。営業は科学技術のように積み重なってできた土台があって次の営業に発展していくということにはならない。営業は文学の分野と同じく人に関することであるから、人の生きる時代にあったやり方に変わっていくだけである。
営業では「スキル」という言葉がよく使われる。スキルの捉え方も時代とともに変わっているようだ。スキルを日本語にすると「技能」とほぼ同義語となるが、技能と言えば身体・神経の動きに関する能力のことで、知識とは区別される。
「営業スキル」という言葉が使われていなかった時代には「営業力」という表現を使っていた。現在では「彼は営業スキルが優れている」と言えば商品技術に関する知識に優れているという意味が強い。そういう意味では昨今よく使われる営業スキルという言葉は、知識面の能力を含んだ幅広い能力を意味している。
営業マン教育の一環として方々で行われている営業スキルアップ研修も販売商品に関する技術的知識の習得やアプリケーション知識を駆使した売り方が大半を占めている。したがって現在ではスキルと言えば商品に関する技術的知識やアプリケーションの知識を指すくらい知識偏重的のようである。
まだ「スキル」を使わず「営業力」と言っていた頃、営業力と言えば接客力・対話力・開拓力等のことを指し、それらを十分に使って売り上げを上げる人を「営業力に優れている」と言った。やがて製品のデジタル化や製造工程の自動化が盛んになり、制御機器や部品の市場が大きくなってくると商品の内容も難しくなったこともあって、営業研修は商品知識やアプリケーション知識の習得が中心となった。商品知識やアプリケーション知識を使ってどのように売り込むかという内容である。
その売り方も次第に理論武装化された、顧客の心理をコントロールする営業や顧客満足度アップ営業、課題解決営業などが次々と打ち出された。いろいろな型の営業が打ち出されたが、その内容は商品の技術的知識・アプリケーション的知識へ偏ることになって、そのことが営業スキルの代弁者となった。
科学技術はニュートンが言ったように巨人の肩の上に立って、さらにその先の研究へと入っていくことができる。営業は先輩たちが成し遂げてきた営業実績を学んで、その上に足し算的に足せばいいとは限らない。顧客やマーケットが連続していればそれもありだが、社会は常に変化していることを思えば足し算だけではうまくいかない。
扱う商品が複雑になり難しくなるからと言って、営業マンのスキルアップ研修が商品の技術的知識やアプリケーション知識に終始するようなことになれば、営業も科学技術と同じような発展理論の立場をとることになる。しかし販売店の成長は付加価値アップを目指すことである。
付加価値は知識面の向上も大事であるが、それ以上に人と人との接触から付加価値は生まれることが多い。そのためのスキル向上の研修も販売店営業にとっては欠かせない。