秋の展示会シーズンを迎え、出展している多くの会社で熱の入った「IoT」提案が行われている。第4次産業革命の大きなうねりと時代の変化を感じるのは私だけではないはずである。
2012-13年頃より、ドイツが提唱した「現代の黒船、インダストリー4.0」は、世界中の製造業に大きな衝撃を与え、人々が「第4次産業革命」の重要性を認識するキッカケとなったが、インダストリー4.0は、残念ながら中小製造業にはなかなか馴染なかった。
私の主要顧客である板金製造業でも、インダストリー4.0の導入事例はあまり聞こえてこない。その理由は、板金製造業の経営者がインダストリー4.0の思想やシステムを理解しても、板金工場には様々な工夫とノウハウが溢れており、現状運用中の「業務システム」を有効的に活用する事ができない限り導入は難しい…といった現実の壁が大きな原因となっている。
インダストリー4.0は、大手中心に構想されており、現状システムの破壊も辞さない論理から『トップダウンIoT』と呼ばれている。本場ドイツでは、依然インダストリー4.0の熱意は高く、トップダウンIoTの思想を固守しながら、ドイツ自動車業界を中心に「その実践が進んでいる」と聞くが、ドイツ中小企業には反発の声も多く、板金製造業界でも、なかなか普及できない状況にある。
かと言って、インダストリー4.0/第4次産業革命の潮流が頓挫しているわけではない。かねてより、大手企業・政府関係者・評論家やメディアなどが揃って「インダストリー4.0の衝撃」を唱え、日本の製造業デジタル化の遅れに警鐘を鳴らしてきた事は正論である。最近では、アメリカ発の「IoT」というバズワードが、世間の一般用語となり、中小製造業において「IoTを取り入れないとヤバイんじゃないか?」といった思いを持つ経営者が急増している。
板金製造業界でもIoTへの眼差しは年々強烈となっており、IoTを経営戦略の一貫に据える経営者は業界全体の半数を超えている。
インダストリー4.0からIoTへと、言葉の主役は変わっても第4次産業革命のうねりは激しさを増しており、最近の見本市や展示会からもそのエネルギーを感じ取ることができるが、中小製造業がIoT導入の目的と経営的メリットを見極めるのはなかなか容易ではない。
IoTの解説書には「見える化」や「つながる工場」といったコンセプトが頻繁に出てくるが、これは手段であって目的でもなく経営目標でもない。多くの機械メーカやNCメーカが、IoTを謳(うた)い「機械稼働の見える化」を提案しているが、中小製造業経営者にはあまりピントこないようである。「コンセプト」や「新技術」にプレゼン熱が入っていても、導入目的についての説明はなく、費用対効果の経営メリットも見えない。
今回は「IoT導入目的と経営メリット」に焦点を絞り、板金製造業界における成功事例を紹介していきたい。IoTでの成功した企業は、例外なく「導入目的」が明確である。当社では、「alfaDOCK」と称する『情報5S化ロボット』を搭載したクラウド型の最新式IoTシステムを板金製造業界向けに提供し好評を博している。
このシステムの主要機能は「図面管理や工程管理」であるが、大成功した企業には共通点がある。この共通点とは、社長ご自身の課題解決を第一目的とし、導入するIoTシステムを「社長の秘書役」と定め、導入に踏み切っている。また、導入に際し(今日まで育んできた)現状の業務フローを破壊せず、現場社員を味方にした『ボトムアップIoT』の実施が成功の秘訣となっている。
板金製造業では、社長や工場長・エンジニアなど経営幹部にかかっている負担が想像を超えるほど大きく、業容維持拡大の大きな障害となっている。彼らが優秀な秘書を手にすることで多くの課題が解決し、結果として経常利益率が30%向上することが実証されている。
「社長の秘書」として機能するalfaDOCKは、極めて優秀な秘書で、山のような仕事をこなす。膨大な見積作業や発注元への納期回答、図面を探したり、必要な情報を瞬時に取り出す。社長が出張する際にも秘書が常に同行している。この優秀な秘書は、工場に存在するバラバラな情報を自動的に収集し、必要な時に必要な情報を瞬時に取り出す事を難なくこなす。『社長のロボット秘書』と命名された第4次産業革命の賜物である。
『社長のロボット秘書』は、社長にとどまらず、工場長の秘書として、そしてベテラン技術者の相棒として大活躍する。ワークを写真撮影すれば図面を出してくれる。工程の遅れや在庫量を教えてくれる『社長のロボット秘書』は、多忙に悩む板金製造業の人材の要(かなめ)となり、結果として高度な図面管理や工程管理を実現している。これは決して夢物語ではない。すでに多くの企業が成功の道を歩んでいる。これを実現するのに膨大な投資はいらない。
数百年前の水蒸気や電気を生んだ産業革命は、そのメリットを享受したのは大資本に支えられた大企業のみであった。第4次産業革命は、少額投資の夢ツールである。『社長のロボット秘書』も、人工知能やクラウドなどIoT最先端技術の塊だが、手軽に手に入れられる。先行導入した企業の勝ちとなるだろう。
『社長のロボット秘書』は、多忙すぎる社長の仕事を救済し、中小製造業再起動による大幅利益向上を実現する「次世代ものづくり」の第一歩である。
◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた