産業用ロボットを巡る 光と影(16)

働き方改革に失敗している日本企業!
ロボットでは20年も遅れている大手企業

「事なかれ主義」原始的な手法

働き方改革に遅れる日本

ご存じの方も多いと思いますが、海外と比べて日本の工場は『労働時間の短縮』や『省人化』が進んでいません。

さまざまな原因の中から、私がロボットのコンサルタントとして全国の工場を見聞きしてきた事を申し上げたいと思います。

海外と比べた日本の工場

日本のものづくりの工場は海外と比べると人だらけです。どういう事かというと、海外の工場では作業のほとんどをロボットもしくは加工機が行っているのは当然で、しかもたった1人で工場全体のロボットを管理している、というのが当たり前です。

それに対し、日本の工場では作業のほとんどを人が行っております。さらに、ロボットや加工機を導入していたとしても、1台に対して人がほぼ1人張り付いています。

余談ですが、弊社と取引されているお客さまは、不可能と言われてきた『少量多品種の加工をロボット化』や『1人で複数のロボットをオペレート』を実現されております。理由は、弊社のロボット用ソフトは『イスラエルの高度な技術』が使用されており、それに『弊社のロボットのノウハウ』を合わせてお客さまに提供しているからです。

この働き方改革の成功体験から、どうしても多くの日本の工場の遅れが目に付いてしまいます。

日本人の言い訳

この働き方改革の遅れに対して、日本人の言い訳は次の2つのパターンが多いです。

1つ目は「日本の熟練工のレベルは高いから、ロボットや加工機でまねができない!」です。確かに、日本人は器用で技術力は優秀です。しかし、海外も優秀な技術力を持っていることを忘れてはいけません。

技術力の高さを比べているとキリがないのですが、最大の問題は、海外では『熟練の技術さえも自動化させようという挑戦心』を持っていますが、日本人は全くその姿勢がない事です。

2つ目は「欧米の一部の企業に比べて遅れているだけ。そんなに遅れているわけではない!」です。これも間違っています。

先日もある日本の工場を中国人が訪れました。その工場は新しいもの好きの社長さんの影響で、日本の中では加工機などで自動化が進んでいる工場です。それでもその工場を見た中国人が「日本の工場は人だらけで、効率が悪いではないか。今の中国ではこんな工場の環境は考えられない」と笑っていました。

私もまったくの同感です。「中国に比べたら、まだまだ日本は進んでいる」と思われがちですが、それは大きな慢心です。もう自動化や生産効率に関しては、すでに追い越されているのです。

日本の勤労状況はさらに悪化する

このような状況でも日本が海外と勝負できている理由は、決して生産効率が良いからではありません。日本人の真面目さや勤労時間の長さでカバーしているだけです。

今の日本の状況のままでは、勤労状況はさらに悪化することは目に見えています。なぜなら、海外ではさらなる自動化や生産効率をすさまじいスピードで向上させているからです。当然、時が立つにつれ、海外と日本とで生産効率の差が開いていくので、その差を勤労時間の長さでカバーせざるを得なくなります。

今の日本の考え方では、この悲惨な未来が来る事は、火を見るより明らかです。

日本の大企業が働き方改革を遅らせる

多くの日本人は「日本の企業は、世界に誇れる最先端の事をしている」と思われがちですが、少なくとも私が専門である産業用ロボットの世界では違います。

その実態は大企業ほどひどく、ロボットのオペレート方法は20年前の原始的な方法と全く変わっておりません。

この詳細は私が掲載してきた記事の通りです。意外に思われるかもしれませんが、最近は中小企業の方が最新の技術を取り入れています。

実は、前述した弊社が販売している『ロボット用ソフト』の問い合わせは、ほとんどが中小企業であり、「生産効率を上げたい」「差別化をしたい」と言われる社長の目は真剣です。大手企業の弊社への問い合わせは、ソフトに対してではなく「(原始的な方法で)ロボットをオペレートする人が足りない。人を出してくれ」です。このような問い合わせが多々あるので、大企業の『事なかれ主義』を実感します。

大手企業の中でも現場の方々は、『生産効率を上げる高度な技術』に興味を持ち稟議を役員にあげています。しかし、年配の役員が却下もしくは保留するケースが多いのが現実です。

役員が理解できない最新技術の稟議は却下され、理解できる稟議だけが通るのであれば、その役員の方々の高額の報酬は何のためなのか理解に苦しみます。接待や改ざんに使っている体力や頭脳を、少しでも生産効率を上げる事に使うべきではないでしょうか。このような役員は、海外であれば「リスクを怖がる役員はいらない」と首になってしまいます。

また、このような大手企業と比べてロボットでの効率化が進めた企業があったとしても、それはあくまで日本のレベルです。

ソフト等をうまく活用する海外から見たら大幅に遅れている事を認識して、早く手を打たないと働き方改革どころか危機的な状況になるでしょう。

◆山下夏樹(やましたなつき)
富士ロボット株式会社(http://www.fuji-robot.com)代表取締役。産業用ロボットコンサルタント。。1973年生まれ。サーボモータ6つを使って1からロボットを作成した経歴を持つ。自社のオフラインティーチングソフトでさまざまな現場で産業用ロボットのティーチング工数を10分の1にするなど、生産効率UPを実現してきた。さまざまな現場での問題解決の方法を知る、産業用ロボットの導入のプロ。コンサルタントは「とりあえず無償相談から」の窓口を設けている。

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