人の意思を直接伝える重要部品、市場も堅調
IoTやロボットなどデジタル化の進展によってあらゆる場面で自動化が進んでいるが、どんな作業も必ず人間が指示することで始まる。人間と機器・装置が初めて物理的に接触し、人間の意思を伝える媒介となるのが「操作用スイッチ」である。
オートメーション新聞はこのほど、操作用スイッチにスポットを当てた「操作用スイッチ年鑑2018/19」(税抜き2000円)を発行した。ここでは誌面の一部を抜粋し、操作用スイッチの最新動向について紹介する。
最新市場動向 自動化背景に産業機器向け堅調
日本における操作用スイッチ市場は、この10年でリーマンショックによる落ち込みから回復しつつある。車載に加え、自動化需要を背景とした国内・海外向けの製造装置や産業機械向けが堅調に推移している。
操作用スイッチは、押しボタン、タクティル、メンブレン、カム、セレクタ、ロータリー、トグル、ロッカ、フット、トリガ、デジタル、多方向、スライド、DIP、イネーブルスイッチ等があり、ボタンを押し込んだり、回したりして電源のオンオフや動作指令、回路切替等を行う。
工場内における製造装置に加え、非製造業である農業、漁業などで使う農機、建設業における建機や各種ツール、インフラにおける制御装置の操作ボックス、サービス業や小売業で使われる業務端末やOA機器の操作用ボタンとして、あらゆる装置に組み込まれている。また家電や自動車、住宅設備等にも取り付けられている。
あるスイッチメーカーは「人間が機械を動かす時、一番初めに触れるのが操作用スイッチ。操作用スイッチは人と機械をつなぐHMI(ヒューマンマシンインターフェース)であり、機械のなかでも最も重要な部品。触れた時の感触や操作感、見た目のデザインがとても大事だ」と話し、私たちの生活に最も身近な電子部品と定義づけている。
市場規模についてJEITA(電子情報技術産業協会)のグローバル統計では、操作用スイッチ、検出用スイッチ、キーボードスイッチ、リモコン等も含めたユニットスイッチなどスイッチ全般で、2015年度が4902億円、2016年度が4634億円、2017年度が4834億円となり、4600億円から4800億円程度で推移している。
NECA(日本電気制御機器工業会)の操作用スイッチに限った統計によると、2017年度は462億円を突破。リーマンショック直後の2009年度の263億円から8年で約200億円増加し、500億円に向けて順調に拡大を続けている。
特に目覚ましいのが海外向け。2009年度は61.1億円だったものが2017年度には100億円超の増加となる167.8億円まで拡大している。背景に機械輸出の好調があり、日本機械輸出組合によると2017年の機械輸出額は51兆2909億円で前年度比9.6%増加した。自動車の輸出好調、工作機械の受注高が過去最高の1兆7800億円に到達、IoTを背景とした半導体製造装置の需要増加、世界的に広がる産業用ロボット導入など、各機械が好調でリーマンショック前の回復しつつある。
また、労働力不足に対する自動化ニーズ、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を前に進むインフラ整備と機器の入れ替え需要等で国内は好調が続いている。
近年はスマートフォンやタブレットの隆盛を筆頭に、機器の操作コントローラにタッチパネルコンピュータやタッチパネル表示器が使われるケースが増えている。
矢野経済研究所の調査によると2016年の静電容量式タッチパネルの世界市場は、前年比3%増加の17億4760万枚。現在はスマートフォンとタブレットが中心だが、今後は車載向けや産業機器向けも着実に伸びていくと見られている。
家電やデジタル機器、ATM、キオスク端末のような業務用機器でタッチパネルが多く採用され、メカニカルなハードウエア形のスイッチからタッチパネルスイッチへ「スイッチのソフトウエア化」の動きが出始めている。
タッチパネル、メンブレンが存在感高める
また、静電容量式タッチパネルを指で操作するのと同じ原理を使ってスイッチとしたものに「静電スイッチ」がある。静電スイッチは樹脂やガラスパネルの裏面に貼り付けられた電極に手や指を近づけると電流が流れて静電容量が増加し、それを検知してオンオフを行う。
デザイン自由度が高く、可動部がないので長寿命というのが大きなメリット。フラットにスイッチが作れてメンテナンスしやすい清潔さも好まれており、家電や住宅設備の操作パネルなどに多く採用されている。車載向けでも採用が増えている。
タッチパネルの需要が急拡大しているが、とは言え、メカニカルなスイッチがすべてタッチパネルに置き換わると言うとそうではない。製造装置や産業機械、インフラ向け装置などシステムの安全性や信頼性、操作ミスの防止などが強く求められる用途ではメカニカルなハードウエアをベースとした操作用スイッチが変わらず選ばれている。
安全性を高めるには、作業者の誤認を防ぐために機械の見た目と操作はシンプルにした方が良く、オンオフの感覚が明確であることも重要だ。タッチパネルはその点でメカニカルなスイッチに劣り、あるスイッチメーカーは「タッチパネルかメカニカルなスイッチかのどちらかではなく、用途や必要性に応じて適切なものを選ぶという市場が出来上がっている。これからもそれは変わらないだろう」としている。
また機械や装置に対し、これまでの機能性や信頼性に加え、デザイン性が求められるようになるなか、タッチパネル化と並んで採用が広がっているのがメンブレンスイッチ。グローバルの市場規模は、2025年までに131億4000万ドルに達すると予測されている。
メンブレンスイッチはシートと電子基板で構成され、ボタンの形や配置を柔軟にデザインできるのが特長。家電製品など民生品では早くから採用が広がってきたが、近年は産業機器でもメンブレンスイッチと従来のメカニカルなスイッチと組み合わせてデザイン性の高いコントロールパネルなども多く出ている。
シートの素材によって耐水性や耐薬品性、防塵性などを高めることができ、さらなる広がりが期待されている。
統計から見る操作用スイッチ
今後有望な「医療機器」「鉄道」
押しボタン、ロッカ、トグルスイッチなど、私たちはさまざまな種類の操作用スイッチに囲まれて生活している。
では、実際にはどんなスイッチが、どこ向けに売れているのか? これから有望な市場はどこなのだろうか? 統計から見る。
①最も販売金額が大きいのは押しボタンスイッチ
日本電気制御機器工業会(NECA)の出荷統計・構成比分析を見ると、操作用スイッチの種類別で最も販売金額が大きいのは押しボタンスイッチ。全体の30%超を占め、LED内蔵で光る照光式と光らない通常の押しボタンスイッチの割合が約半々となっている。
次いで多いのがセーフティスイッチ。2012年に調査項目に入ってから最新の調査までずっと右肩上がり。2017年は18.8%まで成長している。タクティルスイッチ(10%)、非常停止スイッチ(8.3%)と続く。
②産業機器・設備で最も使われているのは盤関係
産業向けで操作用スイッチが最も使われている分野は開閉制御装置(38.7%)。日本配電制御システム工業会(JSIA)によると、開閉制御装置とは電灯のような小規模施設から高電圧モータのような大規模設備を動かす時に電流の投入、遮断をする装置、または作業安全のために設備を回路から遮断する装置のこと。
制御盤や配電盤、分電盤、遠隔制御装置などいわゆる「盤」向けが最も大きな市場となっている。それ以降は工作機械(19.4%)、運搬機械(8.6%)と続く。
③業務・民生機器は民生用電子機器と通信機器
業務・民生機器向けでは、家電やデジタル機器といった民生用電子機器(19.8%)と通信機器(19.7%)がほぼ同率。一時期に比べて苦戦が続く民生用の電子機器ですが、まだまだ大きな存在感を放っている。
通信機器はずっと20%前後をキープ。一方、アミューズメント機器は縮小傾向。10年前まで20%近くを占めていたのが、最新の数値では6.3%まで減少している。
今後、操作用スイッチが伸びていく市場はどの分野なのだろうか?
ひとつは医療機器。日本の医療給付費は年々拡大し、現在の36兆円から2025年には54兆円に達すると見込まれている。それに伴って医療機器市場も年々増加しており、2014年には最大2.8兆円まで拡大している。
実際にNECA統計の医療機器向けの出荷金額でも2017年に全体の6.9%を占めており、今後も増える見込みだ。ホームヘルスやセルフケアなどへの関心も高まり、在宅で自ら操作する機器も増えると予測されており、有望市場と目されている。
また医療機器にはさまざまな操作用スイッチが使われているが、そのインターフェースが統一されておらず、現場も頭を悩ませているとのこと。上に動かすとオンになる装置と下に動かすとオンになる装置、右に回すと開で左に回すと閉になる装置、その逆回しの装置が混在し、片手で操作する機器でもスイッチ同士の距離が離れているなど未熟な設計の機器が多いという。スイッチを通じた改善による医療事故の防止が期待され、その標準化の動きからは目が離せない。
もうひとつの期待分野が鉄道だ。世界中で鉄道整備のプロジェクトが続々と発表されており、アメリカのリニアと高速鉄道計画、イギリスとスウェーデンで高速鉄道計画といった欧米をはじめ、タイ、ベトナム、マレーシア、インドネシアなどASEAN諸国の高速鉄道や都市鉄道計画、ミャンマーは鉄道の近代化、インドの高速鉄道と貨物専用鉄道計画、ブラジルの都市鉄道と高速鉄道など。
車両はもちろん、運行管理システム、駅や券売機など1システムあたりの規模が大きく、それが世界規模で需要が高まっている。
日本の鉄道インフラと技術は世界一と評価が高く、近年は車両はもちろん、システムやインフラ全体の輸出が活発化している。政府も2020年に向けて交通分野のインフラで7兆円の受注を目指すと明言しており、この分野に追い風が吹いている。
「操作用スイッチ年鑑2018/19」好評発売中
「メーカー一覧」と「基礎知識」が目玉
「操作用スイッチ年鑑2018・19」は、操作用スイッチの最新動向をはじめ、操作用スイッチの基本が分かる基礎知識、各スイッチの解説とメーカー一覧で構成されています。
目玉は「基礎知識」と「メーカー一覧」で、基礎知識は日本電気制御機器工業会(NECA)の全面協力のもと、操作用スイッチの基本を解説し、特に学生や新入社員、若い技術者向けに最適な内容となっています。
メーカー一覧は、押しボタンスイッチ、カムスイッチ、トグルスイッチ、フットスイッチ、サムロータリースイッチ、DIPスイッチなど各スイッチを取り扱っているメーカーを独自調査で一覧にまとめました。日本メーカー、国内販売しているメーカーだけでなく、日本未進出の海外メーカーまでカバーしています。
現在、「操作用スイッチ年鑑2018・19」は1冊2000円(税抜き)で販売しています。購入をご希望の方は、下記までメールかお電話でご連絡ください。
info@automation-news.jp
TEL:045-228-8873