センスのある若手技術者を伸ばすために
様々な業界で様々な企業のサポートをしていますが、各企業で1、2人程度、とてもセンスのある技術者に出会うことがあります。年齢、学歴、性別は関係ありません。まさにセンスというものです。生まれ持ってのものといっても過言ではありません。
今日のコラムでは高いアウトプットを達成できるセンスのある技術者をどのように育成していくか、ということについて述べてみたいと思います。
センスのある技術者の共通項
センスのある技術者に共通しているのは、「自分で考え、基本的に提案型で業務を進める」「日々の業務の中からさまざまな気づきをする」「文章を書くよりも直感で動く」「仕事が早い」「人に指示するよりも自分で仕事を抱え込む傾向がある」といったことです。
このような方々は現場をはじめとした様々な場面で力を発揮しており、上からも下からも、そして横からも評価が高いです。ある程度年齢を重ねると企業によっては問題児として扱われてしまっているケースもあります。
チーム連携が苦手でコミュニケーションが得意でない場合があるからです。いずれにしても良いところと課題と思われるところがあるのですが、生み出す成果が高いことから良いところが完全な強みとして出ているのだと思います。
一般的な技術者とは育成方法に違いが
実は先述のようなセンスを示す技術者の育成というのは一般的な技術者とは異なるアプローチが必要です。一言でいうと、「型にはまらないように伸びしろを高める基礎作りをする」ということになります。
一般的な技術者の育成に対して最重要なのは、「文章作成力に裏付けられた論理的思考力」です。95%以上の技術者はこれを基本に育成することが必須であり、これこそが世界を相手に企業が戦うために必要な基礎力となります。逆にいうとずば抜けたセンスがなくとも、論理的思考力を文章作成力によってみにつければ、センスのある技術者たちと同等以上の働きをすることもあります。
しかしセンスのある技術者の場合はこの限りではありません。センスを発揮している根幹ともいえる「思考回路」に対して悪影響を与えないように、そしてどちらかというとその思考回路がより成長するように誘導することが重要といえます。
動画や画像を中心とした表現力を鍛えさせる
センスのある技術者に共通するのは、「文章を書くのをあまり好まない、得意でない」ということです。きちんと書いてくれ、といえばかける場合がほとんどなのですが、自らの思考スピードと比較して書くという作業が圧倒的に遅いため面倒である、というのがその方々に共通する考え方のようです。
とはいえ一人で完結する仕事だけをやっているのであればいいのですがそのような仕事は限りなく少ないはず。やはり何らかの媒体を通じて自らの考えたこと、言いたいこと、やっていきたいことなどについて情報発信をする必要があります。このようなスキルを持つことでセンスを有する技術者の考えを具現化できる他の技術者との連携も図れるようになります。
ここで活字ですべてまとめ上げてくれ、と言いすぎると思考回路が働くことを阻害してしまい、結果としてパフォーマンスが落ちてしまいます。
このような場合、センスのある技術者に対して必要なアプローチは、「何かを表現する際に、動画や画像を活用して説明する」ということを鍛えることです。
文章を書くことに比べ、動画や画像というのはそれをみた人間の認知効率が高く、また情報を発信する側にとっても文章を書くことと比較し、思考回路の停滞を回避しやすくなります。最近は情報技術の発展のおかげもあって、動画や画像を使ったプレゼンや各種書類作成もやりやすくなっています。
上記のような技術的な恩恵は積極的に活用するのが妥当といえます。
一層の伸び育成には「自由」が必要
センスのある技術者は色々なことを難なくこなすので仕事が集中しやすい傾向があります。これは組織としての成果を求める以上ある程度は不可避といえます。その一方で成果を出しやすい技術者に仕事を集中させ過ぎる、またその状況を放置すると、新しいことを生み出すという技術の最重要の部分の芽を摘んでしまうことにもなりかねません。
やはり技術者が技術者として輝くためには、「自らの裁量で動ける自由空間と最低限の自由予算」というものが必須です。
これは製造現場でも同じことです。一般的な製造現場では決められたことをきちんとマニュアル化し、安定したものを安定的に作る、という基本を徹底します。多くの場合はこれが正解です。しかし、自ら考え、様々な事を提案できるセンスを有する技術者に対して、そのルールを適用してしまうと、力を発揮する範囲が狭まってしまうのです。
そのためセンスのある技術者が生産現場にいる場合は、その人間が直感ベースで自由に開発的な業務をできる設備と空間、そして最低限の予算を用意してあげてください。これこそが現場が活性化するきかっけにもなるのです。
製造現場でない技術者の場合はいたずらにマネジメントの役割を強要するのではなく、自らの興味に基づいて自由に仕事をできる空間と、要望に応じて必要最低限の予算を与えてあげてください。そして予算を与えた以上は成果を求めすぎず、自由にやらせてあげてください。自由にやらせてもいいと思える予算を与えるのがポイントです。
自ら考え、提案できる力のある技術者には、むしろ自由を与えることで結果的に組織として最も必要な、「競争力のある新規技術、新製品の創出」へとつなげることができます。
いかがでしたでしょうか。上記の育成方法が当てはまる技術者は組織の大小関わらず、一組織辺り概ね1~2人程度です。センスのある技術者をさらに伸ばすにはどうしたらいいのか、ということをお悩みの方にとってご参考になれば幸いです。
◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社 代表取締役社長、福井大学非常勤講師。
FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある