戦略性のある時間配分を
守りより攻めの営業が重要
営業マンが携帯電話を持つのが常識になったのは、日本のGDPが500兆円を達成した頃である。携帯電話は、営業効率に多大な貢献をしている。便利なものは、得てして当初は嫌われる。
例えば19世紀の英国では、機械が労働者の仕事を奪うと言って、ラッダイト運動(機械破壊運動)が起きたことや、この業界でもシーケンサーが発表されたばかりの70年代には制御盤製作をなりわいにしている業者の人たちの間では、配線工数をお金にできなくなるという理由で嫌う傾向にあったことなどは、現在の便利さを考えると驚きである。
携帯電話より少し前にポケベルの時代があった。営業マンはひとたび外出すると、どこに居るか不明であり、緊急の時の連絡用にポケベルを持つことを義務付けたところ、監視されているようでポケベルを持つのを嫌った営業マンが多かった。
携帯電話も当初は、そのような傾向があったようだ。今では携帯電話を持たない営業マンは考えられない。営業マンの生産性向上には経験や知識のほかに時間が大いに関係する。経験や知識は無限性を持つが、時間は有限である。したがって、時間の使い方のうまい、下手で売り上げに影響が出る。
携帯電話は社内外との連絡、コミュニケーションを即時にできるという点で営業マンに与えた影響は多大なものである。携帯電話は進化してスマートフォン機能が当たり前となって、ますます便利になっている。
利便性は余剰や余裕をつくってくれるものだが、利便性の影には取り残されて、忘れ去られる物事が出てくる。また利便性があだとなる事もある。その事に気付き、思いを巡らせておかねばならない。
部品や機器を扱う業者では、販売店間で顧客を取った、取られたという戦国時代のようなことがあった。その頃の営業マンは競合他社に顧客を取られまいとして、他社より多くの時間を割いて訪問回数で勝負を試みた。回数を増やすことによって、顧客との関係を密にし、案件を早くキャッチできることがあったからだ。現
在では訪問回数で勝負する時代ではない。用件があれば担当営業の携帯電話に連絡してくる。それを素早く確実に処理していけば顧客は逃げないことを知っているからだ。
しかしその余裕をつくる携帯の利便性は、営業マンを便利屋扱いにしてしまう傾向があることに気付かなくてはならない。それでは営業マンが生産性を目指すどころか、悪化を招くことになってしまう。かつてやっていた訪問回数を上げて相手の歓心を買って、案件のキャッチを試みているのと同じことが携帯を通して行われているのだ。便利屋まがいの事をやらなければ競合他社に注文が流れたり、関心が行ってしまうという不安感を携帯電話がつくっているとすれば、営業力の低下は免れない。営業マンの生産性は、限定された時間にどれだけの営業利益を上げるかである。
製造業である顧客の現場では、毎期毎期、生産性向上を目指して現場改善を積み上げてきた。そこに付加価値を生む源泉がある。モノを造っていく限り、この活動は続けなければならない。営業マンの生産性向上も同様に、一期のみの利益追求ではない。したがって、知識、経験だけでなく、戦略性を持った時間の使い方が必要になる。その時間を守りの営業と攻めの営業に配分しなければならない。
携帯がひっきりなしに鳴っているが、営業成績はそれほど上がらない営業マンは、守りの営業ばかりだからだ。もっと攻めの営業に時間を割く必要がある。
今時の攻めの営業とは言うまでもなく、商品を選定する新規の設計技術者を増やすことである。販売店での会議中、ひっきりなしに携帯のマナーモードが鳴っている。これは一過性のことか常態であるかをよく検証しておいたが方が良い。