高い「制御技術」活用
建築物を抜本改善 価値の提供強化
少子高齢化や労働力不足と並び、日本ではエネルギー問題が社会的な課題となっている。
その解決にはエネルギーを生み出す側と、エネルギーを消費する側の両方からのアプローチが必要とされるが、消費エネルギーを減らすための取り組みのひとつとして、近年注目を集めているのがビルのエネルギー消費量を最小限に抑える「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」だ。
東芝はZEBを提案・推進する「ZEBプランナー」として活動し、制御技術を通じて省エネと最適環境の構築による価値の提供を強化している。
ZEBとは?
ZEBについて、経産省では「建築計画の工夫による日射遮蔽・自然エネルギーの利用、高断熱化、高効率化によって大幅な省エネルギーを実現した上で、太陽光発電等によってエネルギーを創り、年間に消費するエネルギー量が大幅に削減されている最先端の建築物です。ZEBを実現・普及することにより、業務部門におけるエネルギー需給構造を抜本的に改善することが期待されます」としている。
つまり建物自体で消費するエネルギーを自給自足できる建物のことで、それを増やしていこうというもの。ZEB推進は国を挙げた戦略であり、「エネルギー基本計画」では2020年までに新築公共建築物等で、30年までに新築建築物の平均でZEBの実現を目指すと明言されている。
その対象はビルディング、つまりは建築物全体であり、オフィスビルをはじめ、商業施設、病院、ホテル、学校、公共施設なども含む。
東芝の制御技術を駆使したZEBへの取り組み
東芝は18年1月、ZEBを実現するための技術や知見を持ち、相談や業務支援を行う「ZEBプランナー(種別:コンサルティング)」に登録され、ZEBの推進と普及拡大に向けた活動をスタートしている。
ZEBに向けた取り組みというと、建物を建てる段階でZEBとなるように設計することをイメージしがちである。しかし建物の構造はエネルギーを極力必要としないパッシブ技術を最大限に活用しつつ、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギー設備、LED照明や高効率空調といった省エネ設備を導入しても、実はそれだけでは不十分だ。
そうして建てられた建物を制御技術を用いて最適に運用する、いわゆるBEMS(ビル・エネルギー・マネジメント・システム)によって無駄をなくすことも重要となる。設計と運用の両方を行うことがZEB実現のポイントだ。
東芝は特に後者の最適運用に注力し、「スマートBEMS」と呼ばれるエネルギー管理システムを駆使したZEBソリューションを提供している。建物の開所後も、実運用に合わせてBEMSの省エネチューニングを行うことで、さらなる省エネ化を図れることもポイントだ。
東芝インフラシステムズ事業開発センター総合エンジニアリング部野田肇部長は「ZEBのベースとなる50%以上の省エネを達成するためには、建築上の工夫や高効率な設備機器の導入だけではクリアは難しい。さらなる上積みを目指すにはBEMSによる省エネ制御が重要となる。第1の省エネがパッシブな設計の建物、第2の省エネが高効率設備の導入だとしたら、制御は第3の省エネだ」という。
独自開発の多機能ヒューマンセンサを活用した画期的なZEB
13年3月に竣工され、同社本社が入居するラゾーナ川崎東芝ビルは、設計と運用の両輪を満たすことでZEBを達成。今も自らを実験場としてZEB実現に向けた先進的なビルソリューション技術の実証を行っている。
15階建ての同ビル内には、同社の秘密兵器とも言うべき多機能ヒューマンセンサが700機取り付けられており、BEMSにより建物内のビッグデータを常に収集・解析し、それをリアルタイムに制御へフィードバックすることで最適運用を実現している。
同センサの最新機種である「SMART EYE SENSOR MULTI(スマートアイセンサーマルチ)」は、東芝デバイス&ストレージが開発した画像認識プロセッサ(Visconti2)を搭載し、高度な画像認識技術を用いて人の検知を行うIoTセンサだ。従来の赤外線センサに比べて人の微細な動きを広いエリアで検知でき、人の在/不在だけでなく、人数・活動量・照度の推定、歩行/滞留の判別など人に関する“マルチ”な情報を取得できる。
カメラの入力画像をデバイス内で瞬時に処理して、プログラムデータとしてBEMSなどの制御装置に送り出すことで、照明や空調、エレベーターなどさまざまなファシリティ(設備機器)のスマート制御を可能にした。
「通常、カメラ画像を用いた制御の場合、画像データを一旦サーバに送り、サーバ上で画像処理を行ってから制御にフィードバックする。しかし当社の場合、自動車の先進運転支援システムに使用されている画像認識用LSIを応用することで、リアルタイムな解析と制御を可能にした」(野田部長)。
さらに、同ビルでは空調設備全体を1つのシステムとしてエネルギーモデル化し、これまでは設備ごとに部分最適されていた制御を全体最適化することで、高度な省エネを実現している。
「延床面積10万平方メートルを超える大規模ビルながら、15年度の一次エネルギー消費量は753.2MJ/平方メートル・年となり、14年度ZEB基準と比較して約58%削減し、ZEBを達成することができた」(野田部長)。
ZEB+環境最適化の提案を強化
多機能ヒューマンセンサが取得した人に関する各種情報を活用することで、他のセンサの機能を代替してさまざまなアプリケーションに応用できる。例えば、室内の人数が分かれば、呼吸量からCO2濃度の変化を推測でき、それによりCO2センサの代わりになる。人が通過する数や動きを検知すれば、動態分析に活用することができる。
また、人とそれ以外のものの判別も現在開発中だ。将来的には車椅子やベビーカーなどを検知し、エレベーターを自動で専用運転モードに切り替えるなど、社会的弱者の方々のサポートに役立てることもできる。
同センサを活用した制御は省エネだけにとどまらない。施設内の快適性の向上など創意工夫次第でもっと有効活用でき、同社はZEBのプラスアルファとして最適な環境構築まで含めた提案を強化していく。
野田部長は「画像センサ1台で照度検知やCO2濃度の推測など各種従来センサの機能を代替できるほか、商業施設の混雑度検知によるマーケティングや、オフィスの利用状況見える化による働き方改革への応用などが期待できる。ビルといっても、オフィスや病院、商業施設、工場など建物の使われ方は異なる。それぞれに理想の環境があり、人の行動を認識して最適な制御を行うことで、その理想の環境構築に役立てることができる。ビルオーナーやデベロッパーと共創し、最適な環境構築を提案していきたい」と話している。