【特別寄稿】アーサー・ディ・リトル ADLが読み解くオートメーションの将来像

イノベーションが急速に進むFA領域

昨今、デジタライゼーション/AI/IoTに代表される様々なテクノロジーが市場に登場し、市場構造や企業のビジネスモデルに影響を与えるといわれている。デジタルテクノロジーを基点としたイノベーションはその影響力を増しながら、各社はその対応に迫られているのが現状である。迫りくる技術潮流が自社にどのような影響を与えるのか、また、その技術潮流を活用してどのように新たな事業モデルを産み出していくのかを各社が内外のリソースを投入して本気で考えるフェーズが到来しているといえる。

一方で、ファクトリーの世界に焦点を当てると、効率化/自動化が至上命題であったため、産業間での差異はあるものの特に先進国では高度なソリューションが既に実現されているともいえる。デジタライゼーションをファクトリーに応用した一つの概念であるIndustrie4.0で提唱されているモデルケースでも、企業によっては既に近しい内容を実現済みであったり、これまでボトムアップに進めてきた自社の取り組みと何が違うのか分からないという声も耳にする。

上記のようにファクトリーの世界では効率化/自動化が明確な目標として設定され、かつボトムアップでも十分に高度化が進んでいったことから、イノベーションの余地が少ないようにも思われている。ただし、昨今の状況を考慮すると、SW技術を中心とするERP/MES/サプライチェーンとの連携及びそのAI活用といった現場視点では一部距離を感じてしまうイノベーション事例だけではなく、HWを基点とした領域でも、オートメーションに関連したイノベーションの余地は残っているように思われる。

 

ADLではイノベーションをけん引する技術群をこれまでの様々なプロジェクト経験から見極め定義している(図表1)。その中でも特にファクトリー領域で、近年市場成長という明確な形で成果を出しているのが、「Collaborative, smart machines and robots」と「Autonomous transport systems」のブロックである。

コラボレーションロボットとして有名な企業としては、2005年に登場したデンマークのユニバーサルロボット社が挙げられる。垂直多関節(6点の関節)をもつアーム型ロボットを主要製品としており、簡易なプログラミングによるインテグレーションの容易さと中小企業にターゲットを絞りこむことで急速に成長しており、12年に13million USDであった売上は15年には68million USDと約5倍の成長を果たしている。

既にコラボレーションロボット内でのシェアも高く、ファクトリー内の世界だけではなく、食品調理などの世界でも活用が広がり、新たな潮流を生じさせている。この企業は15年に自動検査装置大手のテラダイン社に買収されるのだが、テラダイン社の検査工程からのビジネストランスフォーメーションの着眼点も勿論ながら、18年には後述するモバイルロボットを主要領域とするMiR社の買収をした点も興味深い。

▼図表1

 

前述したMiRであるがこちらはAutonomous Transport Systemのブロックに属するモバイルロボットの先駆け企業である。モバイルロボットとはAIV(Autonomous Intelligent Vehicle)と呼ばれるマテハン機器などに代表されるAGV(Automatic Guided Vehicle)の進化系のプロダクトであり、主に工場/倉庫内の搬送を自動化するロボットである。倉庫内における搬送自動化ではAmazonに代表されるKivaプロジェクトなどで推進が進んでいる。

また、ファクトリー内では搬送レベルでも十分に自動化が進んでいるように思われるが、実際には一括で搬送し、人手で搬送が不可能なものや人手で行うことが明らかに非効率であるものを除いて、実は搬送は人手で行われている工程が多いことが現実である。その中でモバイルロボットの市場は急速な拡大が期待されており、企業によっては、前年比200%以上での売上増を達成するなど好調な成長を実現している。

更に製造装置メーカーがモバイルロボットを組み合わせ、ラインソリューションとして提案するなど、工場のフレキシビリティ向上の中で、ライン自体の自由度を上げかつ省人化を進める動きが進んでいる。併せて、これまで厳密には管理し辛かった人を介した搬送工程が自動化されることで、工場全体のプロセスを見える化し、更なる効率化余地の明確化に寄与することも期待されている。

 

また、金型メーカーが3Dプリンタを活用し、顧客工程の一部を請け負うことに成功したり、センサーを活用することで自社の生産状況を顧客に一部開示し、顧客の調達計画とシームレスに連携することで海外大手スマートフォーンメーカーから大型案件を受注したりと、既存事業にテクノロジーを組み合わせることで自社事業の更なる飛躍につなげている企業も数多く存在している。

ADLではファクトリー・オートメーション領域でも様々な顧客支援をしてきており、そのプロジェクトの一環で、ファクトリーにおける課題の棚卸したことがある。

多様な産業における生産現場の中で、数十件超のヒアリングを通じ課題の棚卸をしたのだが、その課題は特定機器や特定工程に関わるもの以上に、工程間/工場間/場合によっては顧客間を跨ぐ課題が増加してきており、その改善に求められる技術はHW的にはそこまで高度である必要はない一方で、組織課題などに阻まれて着手が進んでいないということが明確になった(図表2)と同時に、一つの製造機器、一つの工程に限った高度化、効率化は技術アプローチの面からも難易度が上がってきており、組織をまたぐ必要がないため取り組みやすいが、インパクトとしては限定的になってしまっている。

▼図表2

また、ADLではFuture of Operationsというコンセプトを基点に様々な企業のオペレーションの革新を推進しているが、コンセプトとしてはシンプルであり、最先端技術と企業の主要なオペレーションを突き当てることで、自社のオペレーションを高度化する技術を中長期的に見極めようというものだ。

ただし、その際には組織の壁を乗り越えることが必須であり、プロジェクトオーナーもCOOやCIOでなければプロジェクト推進が難しいという場合が多くなっている。FA企業の側面からみると、自社で提供できる領域でのソリューションが基点になるが、実際にはその外側の課題を取り込んだアプローチの提案が必要であり、三遊間と呼ばれる領域にこそイノベーションは潜んでいる。

また、その際には必ずしも実現難易度の高い先端技術が求められるわけではなく、顧客の課題に寄り添った現実的なソリューションの提案が勝負所となっているのである。

 

電動化、再びのアジア期待 物流領域との融合が鍵に

では、市場側からは何が求められているのであろうか。今後注視しておくべきテーマとして「電動化プロセスの進展に伴う工場プロセスの変化」「中国及び周辺アジア国の生産集中の更なる高まり」「ファクトリーソリューションの倉庫/ロジスティックス/その他領域などの染み出し」であると考えている。

まず、産業別の市場規模ベースでは、FAデバイス/製造装置/工場マネジメントまで含めると、電子機器6兆円、自動車8兆円、食品飲料5兆円が3強領域であり、以下産業機械2兆円、金属加工1.6兆円、医薬バイオ1兆円、航空宇宙0.6兆円と推計している(注:PAと呼ばれるプロセスオートメーション領域および倉庫などのウェアハウス及びロジスティックス領域は含んでいない)。またいずれのセグメントにおいても、2025年に向けて2-5%程度のCAGRが期待されている。その中でも成長ドライバーとして期待されているのが、パワートレインを中心とする電動化の流れである(図表3)。

パワートレインの電動化に伴い「電子・機械部品の融合」「混流生産増加」「車体移送(他周辺プロセス)の自動化」「新ラインの早期最適化」などが引き起こされる。前者2点では、これまで別工程で製造されてきた、エレクトロニクス製品と機械部品が融合され、車載部品メーカーはより長い工程を担当する必要が出てくる。例えば、モーター+駆動回路、PCS+回生回路、電池+BMSがその一例となるだろう。

▼図表3

 

また、車体移送においても、これまでのコンベアやフォークリフトを活用した移送設備から、動力系の主要部品が減ることから大型ロボットで車体を持ち上げ、他の多機能型ロボットで一気に部品を組み付ける工程になることも予想される。欧州のPHEVなどでは、新たにラインを刷新することが多く、テスラのように自動化を前提としたラインとして立ち上げることが多い。何より今後の電池に対する各社の投資規模の意欲(図表4)をみると、新規投資かつ先端プロセスを採用する可能性として無視できないセグメントの一つといえそうである。

また、中国及び東南アジアに対する生産設備に対する投資額は他地域に比べて高い数字を示している。先進国の工場投資のみならず、現地の企業の積極的な投資も拡大していくことは注目に値する。また、日系プレイヤに対し、中国/東南アジア系プレイヤは工場をセットアップし実際に動き出すまでの仕上がりを要求することも多く、一つのコンポ-ネントだけではなく周辺領域を取り込んだソリューションとしての提供が重要になっていくことが予想される。

また、中国製造2025では重点強化領域の一つとして、”高度なデジタル制御の工作機械・ロボット”が提唱されており、「世界の製造強国の仲間入り」が目標として掲げられている。その一例として、ハイアール社の冷蔵庫工場では「スマート・インタラクティブ製造プラットフォーム」が導入されている。同プラットフォームでは、消費者、メーカー側管理システム、工場、物流がリアルタイムで繋がり合い、消費者はどこからでもインターネットを介し、冷蔵庫をオーダーメイドで注文することで、工場は即座にオーダー内容に応じて生産を行い、完成後物流業者によって製品が消費者指定の時間・場所に届けることが実現された。量・質共に中国を中心とするアジアのファクトリーの進化には目が離せないだろう。

▼図表4

 

最後にファクトリーソリューションのその他業種への染み出しであるが、まず代表的な領域が倉庫/ロジスティックスの領域といえる。Amazonなどの巨大企業は既に自社で倉庫物流の自動化を積極的に手掛けているが、今後中堅規模のEC企業の存在感が増していくことが考えられる。

元々倉庫物流はファクトリーの世界とは異なる領域と捉えられていたが、多品種少量が爆発的に進む中で、正確なピック&プレイス、自動搬送、トレーサビリティなどファクトリーソリューションの応用で対応できる領域が増加することが予想される。

ニトリがインド発でシンガポールに本社を置くベンチャー企業のGreyOrange社の搬送機器バトラーを約80台以上導入し、ピッキング効率を既存の4.2倍に向上させたことも記憶に新しい。東南アジアでもECを中心とするスタートアップが数多く立ち上がってきており、その倉庫物流の領域を取り込んでいける可能性があるだろう。

 

メーカーとユーザーとの共創
共にデザインする新たなオートメーションの世界に

市場の変曲点的に見ても、技術進化においてもまだファクトリー内におけるイノベーションの余地は大きいと思われる。ただし、そのイノベーションは自社技術の高度化に絞っていては見つかり辛い。顧客プロセスを如何に理解しているか、また、顧客側から自社製品の周辺領域まで含めての課題や自社工程を共有してもらえるフックをいかにかけておくかが重要である。

したがって、丁寧に顧客側の課題を理解し、自社の製品自体を梃にしながら、どの領域に染み出しを作り出せるのか、そのために必要な将来的なスキルが何かを見極めることが重要になろう。併せて、中長期の中で、顧客のファクトリーをどのように変化させていくべきなのか、その中で自身の役割が何を果たすのかを説明できることが求められる。

様々な技術潮流が登場する中で、先端化した工場は自社のオペレーションを高度化させるだけではなく、製造業としての競争力を市場にアピールするマーケティングとしての効用も発揮し始めているといえる。自社オペレーションの強化は、経営としての最重要検討項目であり、短中期のROIのみではなく、将来のオペレーションのデザイン自体を語れることが重要になってきている。

 

特に、日系以外の顧客は前述したように、その構想自体を任せてしまうことも多く、難しい市場であると同時に、方向性を示せればこれまでのような限られた領域としての提案だけではなく、包括的に自社の提供領域を拡大し、競争力を向上させることが可能である。

製造業のオートメーション化をボトムアップに支えてきた確固たる能力を持つ日本企業が、今後アジアを中心とし成長していくファクトリー市場で上手くその潮流を掴み、過去の強い日本の製造業の姿をオペレーションの支援者という立ち位置で再実現してほしいと願う。

また、年始以降に検討している3回の連載では、本記事で紹介した市場潮流/イノベーションの動向を紐解きながら、日系企業がどのように取り組んでいくべきかについて紹介していくこととしたい。

 

ADL(アーサー・ディ・リトル)のご紹介

製造業を中心とした企業に対して、成長戦略などの支援を行うグローバルの経営コンサルティングファーム。1886年、世界最初の経営コンサルティングファームとして発足して以来、”Side-by-Side”のコンセプトの下、”戦略と世界観の構築”、”人と組織環境の開発”、”経営と技術の融合”をテーマとしたコンサルティングサービスを提供し続けている。

現在は本社を欧州に構え、アジア地域を中心とした支援はジャパンオフィスとその傘下のシンガポールオフィスが中心となって担当している。

ファクトリー・オートメーションの領域はもちろん、エンドマーケットとしての自動車、エレクトロニクス、エネルギー、IT、化学、食品、ヘルスケアなどの製造業の動向や、そこで活用されている技術知見にも精通しており、さらに各領域に特化した専門知見を持った外部エキスパートのネットワークも活用しながら、多面的な視点でクライアントの成長を支援。近年も、大手エレクトロニクスメーカーに対する全社FA戦略の策定支援や、中堅機械メーカーに対するマテハン事業の改革支援、ロボティクス領域おけるMA支援、等クライアントの規模や技術領域を問わず、様々な観点でFA領域での支援実績を積み上げている。

同社ジャパンオフィスは2018年で設立40周年を向かえ、オフィスとしての規模も拡大し続けている。日本の主たる産業である製造業への支援を通して、日本の産業全体の発展を実現することをジャパンオフィスとしてのミッションとしており、製造業のクライアントや官公庁への支援を通して、日本の産業発展に貢献している。

また、ADLグローバルの中でも特にジャパン・シンガポールの二拠点のプレゼンスは高く、アジアを中心としたグローバルへの展開・連携支援なども積極的に実施している。

参考:アーサー・ディ・リトル

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