【提言】利他主義を忘れた大手製造業「賀詞交歓会からの警鐘」〜日本の製造業再起動に向けて(47)

毎年恒例の賀詞交歓会が、今年も例年通り全国各地で開かれた。製造業にとっては、極めて絶好調であった昨年に引き続き、本年も明るい賀詞交歓会のはずであるが、大手製造業の賀詞交歓会に参加した中小製造業の経営者からは、「賀詞交換会が形骸化している」といった声が多く聞かれる。

「昔は、大企業トップの年頭の辞には迫力があった」「最近の大手企業経営者の話はピンとこないし、心にも響かない」といった声や、「米中摩擦影響を予測する経済評論家のような話ばかりだ」「企業の戦略など何もないので失望した」といった声が充満している。

バブル崩壊から数十年が経過し、かつて世界で光り輝いた日本製造業の威光は確実に失われており、『賀詞交歓会からの警鐘』も決して無視できない緊急事態である。

 

グローバル化を標榜し、グローバル化に踊らされ、哀れな末路を辿った大手企業は枚挙にいとまがない。日本を代表する自動車産業ですら、ゴーンショックで年末年始の話題をさらっているのだから様にならない。にもかかわらず、依然としてグローバル化を賀詞交歓会の席上で声高に掲げる大企業トップがまだ居るのも不思議である。

また、数年前まで、ドイツより来航した現代の黒船『インダストリー4.0』に衝撃を受けた各企業では(時代に乗り遅れる危機を感じ)トップテーマに取り上げて推進したものの、何も実行できないまま時を無駄にしてきた企業が多く存在する。

そして今の企業風潮は、バズワード『IoT』に看板をつけかえて、「IoTが当社の重要戦略である」との方針を掲げ、「全ての機械がつながる」とか、「日本式インダストリー4.0」といったお題目を戦略と称する企業が増殖している。グローバル化戦略と同様、なんの自主性もなく「話題のつまみ食い」を企業戦略に据える日本大手製造業の行末に、働く社員から仕事を請け負う中小製造業の経営者まで、大きな不安を覚えている。

 

一般論では、史上空前の利益を吐き出す企業が続出し、6年連続の給与アップも期待できる環境なのに、なぜか閉塞感がみなぎっている。世界に目を転ずれば、移民排除や反グローバル化は、先進各国に芽生えている『時の流れ』である。

しかし、わが国の政府は移民を増す法案を通し、周回遅れを実施している。また、大手製造企業において、グローバル化がうまくいかないことが実証済みなのに、不思議なことに日本の歴史に根ざす『伝統的な日本経営』に帰還しようとする動きはほとんど見られない。先人の残した文化や伝統を重視せず、不慣れなグローバル標準に傾注するのはなぜだろうか?

年頭に当たり、今回はこの傾向と対策を徹底究明していきたい。

 

日本の大手製造業は、戦前からの老舗企業と戦後の創業の新しい企業に分かれるが、数の上では後者が圧倒的に多い。新しいといってもその社歴は、すでに70年前後の企業が多く、創業者経営の第一世代(創業世代)はとっくに終わり、創業者によって育てられた第2世代(子分世代)の経営者も引退し、創業者を知らない第3世代(サラリーマン世代)の人たちが社長・取締役に就任している企業が日本の大手製造業の大半を占めている。

世襲によって代々継承する中小製造業とは異なり、大手製造業での新任社長は、借金の心配もなく従業員への細かな配慮もいらない。創業者から任命されたのではなく、サラリーマンとして出世競争に勝ち抜いた人々が今の経営者である。お客様や社員への感謝の気持ちは比較的気薄で、グローバル化や株主還元などの(メディアが喜ぶ)言葉に踊らされる傾向にある。

戦後の創業者が、一致して大切にした『利他主義(他人の利益のために活動する)』を現代経営者はどこかに置き忘れている。『利益至上主義。儲かることに徹する』が優れた経営者と誤認し、日本企業の伝統の『利他』がいつの間にか反対の『利己主義』に陥ってしまった。昨年、大企業を連続で襲った不祥事の数々は、大企業経営者の利己主義が招いた結果といって過言ではない。

 

日本製造業のアキレス腱は、大手製造業の『第3世代経営者』にある。何千人、何万人あるいは何十万人から選出された第3世代の経営者が優秀であることは疑う余地はない。この優秀な経営者が、その優秀な能力を誰のためにどうやって使うかが試金石である。どんなに優秀な人でも謙虚に物事を学び続けなければ、優秀性を維持することはできないことは誰でも知っているが、日本大企業の経営者はどうなのか?

私の知るアジアや米国の大企業経営者は、社員の倍も働き、誰よりも好奇心を持って学ぶ。寸暇を惜しんで大学に通い、シンポジウムに参加し、最新情報を貪欲に学ぶ。

日本製造現場の『レベルの高さ』は自他ともに認める事実であるが、残念なことに『日本人経営者のレベルの高さ』を指摘する声は全く聞こえてこない。その理由に、社員と一緒に休日を取りまくる経営者が数多く存在し、「IoTやインダストリー4.0は、自分には分からないので部下に任せている」などと語る日本大手製造業の経営者も事実存在する。これで本当に海外に勝てるのだろうか?

 

賀詞交歓会の形骸化が大きな警鐘を鳴らしている。この対策には、日本中の全ての経営者が、日本人のアイデンティティーを意識し、日本式経営の素晴らしさを学び、再確認することに尽きる。『利己主義』から脱皮し、真の『利他主義』を実践することが、日本製造業の急務な課題である。

グローバル化を推進している企業は、例外なく利己主義な企業である。グローバル化と国際化は全く違う。国境を持たない『グローバル化』と違い、日本に錨をおろし、世界に羽ばたくことを『国際化』という。利他主義を社是とし、国際化を実行する大企業経営者の台頭を望む。

 

◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた

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