技術者が生き残るのに必要な普遍的スキルとは
今日の技術者人材育成コラムでは、技術者にとって永遠のテーマの一つともいえる、「普遍的スキル」について述べてみたいと思います。
国も積極的に取り組む高等教育の盲点文部科学省の中に大学分科会というものがあり、その中に「今後の高等教育の将来像の提示に向けた論点整理」というページがあります(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/1400115.htm)。2017年の末に将来構想部会というところが、今後の高等教育はどのようになるべきか、ということをまとめたものです。
その中で社会全体の構造変化として以下のように書かれています。
◎学術研究や教育の発展→学際的・学融合的な研究、文理融合的な教育
◎第4次産業革命「AI×○○」分野を超えた専門知・技能のSociety5.0組み合わせ
◎人生100年時代→多様な年齢層の学生
◎グローバル化→多様な国籍の教員、学生
◎地方創生→地方の産業の生産性向上、高付加価値化
同時並行で書かれているのが高等教育における人材育成。以下のようなポイントが書かれています。
■18歳で入学する伝統的な学生
◎急速な社会の変化の中で陳腐化しない普遍的なスキル、リテラシー→一般教育・共通教育と専門教育を通じた汎用的能力の育成→強みとなる専門分野と幅広い視野を兼ね備えた人材の育成
◎第4次産業革命時代の新たなリテラシー→数理・データサイエンス
■社会人
◎学術的な背景を持つ教員による最先端の実践の理論化
これらの状況を踏まえて取り組むべきこととして、「多様性」というものを重視すべきだと書いています。社会人と学生、日本人と留学生、学部間交流、大学間交流、産業界や公共団体との関係構築、などなど。これらを見て、個人的にはなるほど、一理あるなと思いました。多様性や柔軟性は私自身も日々実感していることです。
理系学生は研究者として研究機関や大学に勤めるか、技術者として民間企業に勤めるのか、という従来の発想にとらわれてしまっていたら、今のように自らの専門性を活用して事業を興し、技術コンサルティング企業を始めるという経営者と技術のプロ、という人生は思いつかなかったでしょう。
その一方で普遍的なスキルということに関する言及がだいぶ弱いな、というのが完全なる盲点だと思っています。AI、第四次産業革命(IoT等)、グローバル化、などなど。実際に私が日本に限らず海外の最前線にいっても変化は起こっているということは強く感じています。
そのような多くの変化にとらわれてしまうと、マスメディアの情報におぼれ、最も重要な「普遍的スキル」を見失う恐れがあります。
技術者にとって普遍的スキルとは
変化が大きく先の読めない時代こそ基本に立ち返るべきです。技術は当然ながら各業界でさまざまな専門領域があります。その各領域における「原理原則を理解する」というのがまず第一に理解しなくてはいけないことです。
変化が速いのは事実ではありますが、その基本となる部分には必ず普遍的な原理原則があるはずです。本当に重要な技術的原理というのは基本的にどれだけ複雑になっても変わりません。この変わらない部分をきちんと理解することこそが、さまざまな変化に対して柔軟に対応するということにつながっていきます。
最新の情報を理解し取り入れ続ける、というのはその後の話です。
そしてもう一つの普遍的スキルはやはり、「文章作成力」でしょう。ここは危機的状況といっても過言ではありません。
私自身も最初は苦手だったため自分なりに努力をしましたが、これはたまたまその必要性を十二分に認識していた当時の上司の存在も大きかったのです。裏を返すと、当時のその上司に巡り合わなければ私も文章作成力は現状どうなっていたかわかりません。このように文章作成力を鍛えるということはきっかけと本人の問題意識、そしてその課題を克服しようという強い意志が無ければ絶対に醸成されないスキルです。
だからこそ多くの技術者は文章を書くことが苦手であり、それ故、人と話すときに言葉足らずになり、結果、コミュニケーションがうまく取れない、ということにつながっているのです(文章作成については過去にもいろいろなコラムを書いていますので、そちらを合わせてごらんください。「若手技術者の文章作成の癖の一つ反復」「95%以上の若手技術者に不足している最重要スキル」「ノウハウの蓄積文化構築による若手技術者育成」)。
普遍的スキルを見失わないために
やはり若手技術者というよりも、その指導者層にあたる技術者の方々がどれだけ落ち着いて広い視野で物事を見られるのか、というところがポイントといえます。多くの考えることがあるなかで、「何が最も重要か」ということを常に見極める力です。
最近読んでいる細谷巧著「地頭力を鍛える」という本にも似たようなことが書いてあり少し驚きました。普遍的なスキルである「技術の原理原則の理解」と「文章作成力」という2つのスキルについて、その重要性に気づき、それを具体的にどのように理解した上で鍛えていくのか。そのような技術者やマネジメント層が上層部にいる企業がこれから成長していくに違いありません。
◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社 代表取締役社長、福井大学非常勤講師。FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。