営業スキルより営業センス
経験的能力の磨きが大事
和語と言われる日本語の文字には、ひらがなとカタカナがある。カタカナは外来語に使われるためにつくられたものではないが、現在では一般的に、外来語はカタカナが使われている。明治に外来語が入ってきた時には、意味を理解して日本語に直していた。リバティは「自ら由(自由)」としたように。昭和になってもデパートメントストアは百貨店であったし、日本になかったコーヒーも珈琲という字をあてた。
戦後、英語がちまたにあふれるようになると、意味を確かめて日本語表記に直すことはあまりしなくなり、英語の発音をカタカナにして表記するようになった。コンビニエンスストアを便利店と言わず「コンビニ」とカタカナで表記するようなことである。特に昨今入ってきているIT用語は英語そのものをカタカナ表記にしている。それだけ英語教育が浸透しているから意味を理解できるということなのか。
FA機器や電子機構部品営業で盛んに使われているカタカナ表記の言葉の中に「スキル」という言葉がある。一般的にスキルとは訓練を通じて身につけた能力のことである。現代のビジネスの世界ではスキルには訓練で身につけた能力だけでなく、学習で得た知識面の能力が含まれている。現在のFA機器や電子部品営業の間でも同様である。
戦後に発展してきたこの業界であるが、当初の頃は営業スキルという言葉は使われていなかった。その時代にスキルに代わる表現として営業力という言葉を頻繁に使った。その場合の営業力とは、見込客を見つけて開拓していく力や顧客との交渉力といった諸力を指していた。商品技術に明るい人を指して、彼は営業力があるとは言わなかった。その代わりに、彼は商品技術に詳しいとか、商品技術にたけていると表現した。つまり当時は営業力と商品に関する技術的知識を明確に分けていたのである。
現在では営業に係わる能力を一括して、営業スキルという言葉を使っている。しかし営業関係者の会話の中で、「彼はいい営業スキルを持っている」と言えば、彼は商品技術的に明るく、アプリケーション的にも詳しいから顧客の課題を解決する能力があることを指している。それではその他の営業スキルのこと、つまり見込客開拓力や顧客との交渉力に関しては営業関係者の間ではあまり話題に取り上げてないのだろうか。おそらく無意識のうちに知識と他の営業の諸力を分けているのである。
その他の営業の諸力を現代的に無理やりカタカナ表記に当てはめて見れば「営業センス」という言葉になるかもしれない。確かに「彼は営業スキルがある」と「彼は営業センスがいい」と言うのには違いがある。一般的な論調では、スキルは努力すれば身につくが、センスは資質に左右されると言われている。営業に関してはどうだろうか。営業は対人相手の仕事である。「生来、人付き合いの上手な人は営業向きだ」と言われるが「生来、営業センスがいい人」とまでは言わない。営業センスはやはり生来のものではないからだ。
営業センスは営業活動で培ってきた経験的能力の総称である。表現力、洞察力、交渉力、説得力、忍耐力、開拓力、仮説力、質問力などが身についた結果なのだ。生まれ持って人付き合いが上手なだけでは営業という高度で複雑な仕事には通用しないということなのだ。だから販売店の営業マンには営業スキル以上に営業センスを磨かねばならない。そのために販売店の営業マンはこれからたくさんの設計、製造技術、情報管理技術に会っていろいろな経験を積んでいくことが必要だ。営業スキルより営業センスが大事な時代になっている。