新入社員の技術者育成において徹底すべきこと
若手技術者の中で特にまっさらな状態ともいえる新入社員。夢と希望に満ち溢れた新入社員というのは組織の代謝に必須であり、またその後の成長を後押しする重要な要素となります。今日は入社1年目のいわゆる新入社員である技術者の育成について、徹底すべきポイントについて述べてみたいと思います。
指示事項を理解し、業務を進めることこそが大前提
若い方は確かに柔軟な観点があります。中にはなるほど、そういう考え方もあるのか、というものもあるかもしれません。しかし私の経験上、そのようなケースは極めて稀です。
実践経験がほとんどない入社1年目の新人技術者の発想や発言は基本的に的を得ていないものが大多数です。そのため新入社員の技術者に新たな発想などを求めるのはそもそも育成の方向性として間違っています。
それよりもはるかに大切なのは、上司や先輩の指示事項に対してきちんと業務が遂行できるのかというところです。
若手に限らず中堅、中にはベテランの技術者の育成指導に当たった経験がありますが、「読む、聴く、話す、書く」といった業務基本スキルが欠けている方が非常に多いのが実情です。
ある程度経験を積んだ技術者であってもその状況であるので、つい最近まで大学生や高校生だった方々の多くがその基本ができていないのは致し方ありません。実際、大学で指導を行うと基本的な読む、聴く、話す、書くといったベーススキルを有している学生は、全体の2割程度です。
実務でもある程度役に立つレベルのベーススキルを有する学生になると1割程度になるというのが感覚的な値です。そして母数は多くありませんが、高校を卒業してすぐに就職した方や、大学1年生の方がベーススキルが高い傾向があります。
前記の理由はよくわかっていませんが、大卒の技術者の方がベーススキルが劣る傾向があることに加え、年齢を重ねてもベーススキルに劣る技術者がいる以上、若手技術者にはまず基本を徹底させるということが大前提といえます。
基礎の育成に障害となる技術者の卵たちのプライド
多くの場合、前記のロジックがうまくいきません。表向きは指示事項に対して動くと思いますが、内心では「私はこのような雑用をやるために大学で勉強してきたわけではない」と思っているはずです。
このような不満をある程度抱えることは不可避ではありますが、あまり不満が高くなりすぎると、モチベーションの低下が始まります。これが起こってしまうとその後の技術者育成に影を落とすことが多いため、早い段階での対策が必要となります。
質よりも量で基本的な業務推進力を鍛える
前述の通り、読む、聴く、話す、書くといった基本スキルを鍛錬することが1年目の技術者に重要であることは述べました。では実際にどのような業務内容で鍛錬を行えばいいのでしょうか。
結論から言うと、「比較的単純で完結しやすい業務」ということになります。あまり複雑な業務をいきなり若手技術者にやらせると混乱が生じる可能性があります。まずは業務内容を覚えることと同時に、一会社員としての基本を徹底させるのが重要なのです。
失敗を叱ることはあっても怒ったり攻めたりしてはいけません。叱ることはとても重要です。叱るという言動の裏にあるのは育成したいという上司、先輩の熱意です。しかし、感情に任せて怒る、そして問題点を追及するといったことは相手を委縮させるか、大いなる反発を得るだけで育成という観点ではあまり意味がありません。修正すべきポイントを抽出した上で、今後どのようにしていくべきか、という指導をするということが肝要です。
そして小さな成功体験は自主性や実行力を育む原動力となります。
2年目以降への活躍に向けて
基本スキルがみにつき始めた後は、自主性や実行力を活用して、若手技術者ならではの活躍をするフィールドを用意するようにしてください。ポイントは「任せて+フォローする」です。当人の裁量権をある程度持たせながらも、問題点があったらすぐに手を差し伸べる状態にすることが重要です。
そして併せて重要なのが指導方法の統一。もちろん組織変更で人が変わってしまった場合はある程度の変化は避けられませんが、特に新入社員から3年程度は指導方法を統一し、若手技術者が混乱しないよう配慮することも重要です。
いかがでしたでしょうか。今日は入社1年目の技術者に対する育成方法の基本をご紹介しました。
どのような業務もそうですが、基本的な社会人としてのスキル鍛錬がまず第一です。そこを忘れず、そして指導する側もその鍛錬を怠らないというお互いの緊張感が重要だと考えます。
◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社 代表取締役社長、福井大学非常勤講師。FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。