シュナイダーエレクトリック Industry HMI LoB 石井友亜氏に聞く
累計出荷台数500万台突破
今でこそどの製造装置にも当たり前のように取り付けられているプログラマブル表示器だが、日本生まれの画期的な製品であったことはあまり知られていない。1989年にデジタル(現:シュナイダーエレクトリック)が世界で初めてプログラマブル表示器(HMI)を発売して、今年でちょうど30年。プログラマブル表示器の過去と未来について、シュナイダーエレクトリック Industry HMI LoB バイスプレジデント 石井友亜氏に話を聞いた。
現場ニーズを汲み取る
-プログラマブル表示器生誕30周年おめでとうございます。
ありがとうございます。デジタルが世界で初めてHMI「GPシリーズ」を開発したのが1988年で、翌89年から正式出荷を開始しました。2019年はHMIという新しい製品が生まれてちょうど30年目になります。
初年度の89年の344台にはじまり、7年後の96年に10万台を突破。そこからHMIの急成長がはじまり、2004年に100万台、2009年に200万台、そして今年になって累計出荷台数500万台を突破します。
–HMIはどのようにして始まったのでしょうか? また、ここまで受け入れられた理由は何だったのでしょうか?
もともとプログラマブル表示器は、押しボタンスイッチの置き換えから始まりました。1980年代に工作機械や各種製造装置がコンピュータ制御になって高度化すると操作パネル上には所狭しとスイッチが並ぶようになりました。しかしスイッチの数が増えることによって操作性が悪くなり、メーカー側でも設計が難しくなっていたのです。
そこで開発されたのが、スイッチランプを表示器に集約したHMIです。画面をソフトウェアでデザインしてボタン機能を配置し、さらにON/OFFを表示して装置の状態を見える化しました。
設計の自由度が増して、装置もコンパクト化できるようになり、設計者から好評でした。ユーザーからもデザイン性や、タッチパネルによる操作性、自社用にカスタムされた操作パネルとして好意的に受け止められました。
車のカーナビもはじめは多くの操作ボタンがありましたが、進化するに従ってボタンが減りタッチパネルになって便利さが増していきました。機械の操作パネルも似たような形で進み、HMIが主流になり、スイッチは使用頻度の高いものと安全スイッチが配置されるようになっていったのです。
それから95年には世界で初めて高速RISC CPUを採用した高速・高機能HMIを開発し、使いやすさを高めました。2000年には業界で初めてEthernetを標準搭載し、PLCやフィールド機器をつなげた中心、いわゆるハブとしての機能を持たせてIoTのようなことを実現していました。14年にはエッジ機能を備えた機種もラインナップしています。
各時代における生産現場のニーズを汲み取り、それを解決できるデバイスとしてHMIは便利で、それが現場の技術者、設計者から高く評価されてきたのだと思います。
どんな製品とも繋がる
-御社をはじめ、HMI市場では各社がしのぎを削っています。御社の強み、他社との違いはどのあたりでしょうか?
Pro-faceは、元はデジタルのHMIブランドで、タッチパネル表示器、産業用コンピュータ、表示器付きコントローラ、データ収集機器を開発・製造してきました。02年にシュナイダーエレクトリックと資本提携、17年に合併した後も引き続きHMIのトップブランドとして活動しています。
ライバル企業の多くはPLCを中心とした総合電機メーカーで、数あるソリューションのひとつにHMIがあるというスタンスです。当社は「HMI Centric」でHMIを中心に、HMIを活かす戦略を展開しているのが大きな違いです。
例えばHMIにPLCの機能を載せて制御ができるようにしたり、メーカーの種類問わずに800種類以上のプロトコルをサポートして各社のフィールド機器と接続できるようにするなど、他社とは正反対のオープン戦略を取っています。誰とも、どんな製品ともつなぐことができ、そこでコントロールし、データを吸い上げられるのが最大の強みです。
日本の機械・装置メーカーには、さまざまなメーカーのベストな機器を組み合わせ、自社にとって最高のものを作りたいという人が多くいます。Pro-faceはそんな希望を叶えることができます。
-2019年の新製品は?
ラインナップ強化で、マイナス30℃からプラス70℃までの温度範囲に対応する耐環境性の高いモデルを準備しています。温湿度やガスに強く、屋外用途やプラント、水処理などに適し、駐車場や洗車機の制御端末、特殊車両や建機、農機などへの組込利用を想定しています。
普及価格帯では、新たなモデルを追加し、HTML5対応のシンクライアントタイプも発売する予定です。最近はWEBサーバー内蔵の産業機器が増えており、表示だけに特化した機種が欲しいという声に応えます。
パネルコンピュータでは、過去数年にわたり、世代交代を進めてきました。12インチモデルとお手ごろ価格のIPCボックスを発売します。生産ラインを見える化するレベルのライトSCADAにちょうど良い製品です。
いずれもグローバルで発売するもので、国内への展開時期は決定次第お知らせします。
IoTに不可欠な存在
-今後のHMIはどうなっていくのでしょうか?
HMIは、押しボタンスイッチなどと同じフィールドのコネクテッドデバイスであり、ITとOTをつなぐエッジコントロール機器でもあります。またデータ収集や表示、分析まで行うアプリ・アナリティクス層でも使われる機器であり、フィールド、エッジ、ITまですべての領域に関わる唯一の機器です。さまざまな側面を持ち、IoT時代に不可欠なデバイスとして存在感を増していくでしょう。
しかし、製品の形は今とは変わっていくかもしれません。例えば産業用コンピュータでサーバーレベルの処理能力を持つものが出てくれば、HMIもビジュアルに特化した機能だけでよくなります。スマートウォッチやスマートグラスのようなウェアラブル端末が新しいHMIになるかもしれません。
しかしどんなに変わってもPro-faceブランドはHMIスペシャリストとして時代の変化に対応して生き続けることに変わりはありません。
-最近はIT業界から産業向けのPCやパネルコンピュータが出てきています。
競合としては、IT業界から入ってくるHMIの方が脅威です。価格も安く、マーケティングも上手なので。
しかし彼らの作るHMIと、当社を含めた産業向けのHMIではスペックが全然異なります。工場環境は彼らが思っている以上に過酷で劣悪な動作環境であり、屋外機器に関してもそうです。産業用に使うのであれば、それに対応しておかなければいけません。
また高いレベルでのソフトウェアの動作信頼性や安定性、スムーズな処理が求められるのも産業向けの特徴です。ソフトウェアがうまく動かないということは、産業向けでは許されません。当社はそれをセーフブートやBIOSを調整することで安定稼働を実現しています。
HMIの活躍の場は生産現場に留まらず広い範囲に広がっています。当社は世界で初めてHMIを世に送り出したHMIスペシャリストとして、HMI Centricで生産現場の発展に貢献していきたいと考えています。