複雑で情報過多の時代
意識して草創期に学ぶべき
営業マンは毎日が戦いの中にいる。目の前にある案件をものにするために、目の前にある競合商品を切り替えるため、新しい商品を採用してもらうために、毎日、戦っている。
案件、競合、新商品といった目の前の売り上げを目指して活動していると、攻めている営業をしているように思ってしまう。当然、そのような営業行為は攻めの範疇(はんちゅう)ではある。
しかし時期によっては同じ行為も守りになる場合がある。特に時代の環境が変われば、攻めているように見える営業も守りの営業になる。
FA機器や電子機構部品業界の勃興期から成長期に移っていく時に、営業が目先を追い求めたか、明日を追い求めたかによって、売り上げの伸びに大きな差が生まれたことは明白だ。時代の歴史や業界の歴史を振り返ってみるとそれはわかるのである。
時代的な変化は数日、数カ月、1年という短期間に突然変わるのではなく、期間をかけて少しずつ変わっていく。いくら世間やマスメディアが今は変化の時代だと唱えても、実際にその渦中で営業活動している営業マンはそれほど、時代の変化を感じているわけではない。
だからどうしても昨年、先月、昨日の延長でものごとを考え、進めてしまう。その上、身についた営業の型というのはなかなか変わるものではなく、かなり根深くしみついている。
現在、営業に携わっている人の中でベテラン勢や中枢で指揮を取っている人は、1980年代中頃入社の人達である。その時代はこの業界の高成長期であった。したがって最初に受けた営業の洗礼は、次々と登場する新商品の積極的PRを中心にしてつくり上げた営業手法であった。その時代には優れた営業手法だった。
その後、日本経済のバブル崩壊があったが、この業界は大きな落ち込みはなかった。20世紀末頃にはこの業界もかなり成熟度を増していた。よく言われる失速デフレの20年間に突入した頃に新入りした営業マンが受けた営業の洗礼は、成長期の手法の延長にあったものだったが、唯一大きな違いは競合を過剰なほどに意識した売り方になっていた。
商品熟知のための勉強、アプリケーションの勉強、競合との差異化の勉強という営業手法が盛んであった。この営業手法で売り上げの踊り場から離陸し、飛躍していればその手法を継続させればいい。しかし成長軌道に乗らない時は同じ手法の強化を計ってもあまり意味がないと判断してもいいのだ。
こんな時には米国のマッカーサー司令官の残した言葉を思い起こせばいい。「今だ、硝煙が立ち煙る戦場から学ぶ戦術はない」という名言である。終わった戦いから学ぶ戦術はなく、新しい戦いは新しい戦術でなければ勝てないという意味だ。
日露戦争で日本海海戦を勝利に導いた参謀、秋山真之は、火器である大砲のなかった遠い昔に瀬戸内海で活躍した伊予水軍の戦法を研究したと言われる。つまりすぐ前の時代では現在と大きく変わらない。もっと遠く離れた時代にヒントがあることを教えている。
自動制御業界の遠い昔である草創期に、営業はどうしていたのか。営業では商品のことは技術的にたけていても、製造現場がよくわからなかったし、どのような箇所に、どのような使われ方をしているのかよくわからなかった。一体どこに売れるのか手探り状態だったのだ。だから草創期の営業はまずユーザーのことをわかろうと懸命であった。
現在は情報過多の時代となっているが、ネットで知ったり、知識として知る情報では通り一遍の情報にすぎない。営業マンが日頃会っている人はどんな立場で情報発信しているのかもわからない。草創期とは比べられないほど複雑な時代なのに、あまりにも粗末な情報と向き合っている。もっと意識して草創期に学ぶべきである。