技術者にとってのグローバル化とは何か
マスメディアを賑わせた経団連の就活ルール廃止への言及。様々な意見があるようですが、時代の流れを受けた一つの動きといえます。
経団連会長のインタビューなどでも度々きかれた「グローバル化」ということについて技術者がどのようなことを考えなくてはいけないのかということについて考えてみたいと思います。
グローバル化というと「語学」と「文化理解」に直結するケースが多い
若手技術者の方や技術者を育成する側の方にとって「グローバル化」ということについてどのようなイメージをお持ちでしょうか。一般的にいわれるグローバル化というと、多数派意見として、「語学」と「文化理解」に落ち着いている、というのが私の理解です。
これはこれでもちろんグローバル化に向けたアプローチとして間違っていないと思います。恐らく多数派意見はより大衆的に理解されやすいものに集約されていくケースが多いことを考えると、むしろ妥当な意見であると考えるべきかもしれません。
・語学(特に英語をはじめとした海外語)を使えないとコミュニケーションができない
・文化を理解しないと相手が心を開かない
そんな考えが根底にあると思います。
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私自身も学生時代には語学研修、海外ボランティア、欧州研究機関でのインターンなどを経験しており、また社会人になってからの業務のベースはほぼ北米(試験や部品製作委託、量産ライン立ち上げ)だったのですが、その経験を踏まえてもおおむね間違ってはいないかな、と感じてはいます。
その一方で、対象が技術者であり、これからの時代におけるグローバル化という話になると、若干違う観点も考えなくてはいけないと思います。
不変といえる技術の本質は数字と数学
まず忘れてはいけないことがあります。それは国が違えど、言葉が違えど、「技術は不変である」という紛れもない事実です。
以前、「技術とサイエンス」というコラムで、技術もサイエンスも突き詰めると「物事の本質への徹底的なこだわり」というものに集約されると書いたことがあります。上記の技術の本質というのは不変なのです。この極めてシンプルなところに気が付けるか否か、ということが技術者のグローバル化を考える第一歩を踏み出せるか否かの瀬戸際になります。
技術者にとっての不変の本質というものをさらに突き詰めると、「数字と数学」になります。ローマ数字や数学(数式)というのは英語といったレベルではなく、ほぼすべての国で理解される唯一無二グローバル言語です。つまり技術者がグローバルを考えるにあたってまず最優先で取り組まなくてはいけないのは、それぞれの技術者の専門領域に関連する基本的な数字と数学を理解することです。
実際の現場でも小難しい専門用語を使うより、数字を使って議論することが技術者にとっては業務推進の観点から重要です。語学や他国の文化を勉強するより先に、「技術者の専門に関連する数学を勉強する」ということをご理解いただければと思います。当然ながらこのことの重要性は日本だけでなく、世界中の技術者にとっての共通命題です。
今や盲点ではなく明らかに不足しかつ重要な文章作成力
もう一つ重要なグローバル化に向けた技術者のスキルは母国語による文章作成力。技術者の文章作成力の低さは業界問わず、国を問わず世界的に危機的状況にあります。上記の専門性に関連する数字、数学を鍛錬することは重要ですが、それと同じくらい、場合によってはそれより先に文章作成力を鍛えなくてはいけません。なぜならば文章作成力が無い技術者は読解力も低い顕著な傾向があるからです。つまりきちんとした文章作成力無しに、効率的に専門的な勉強をすることは困難なのです。
結局のところ論理的思考力が不足しているため、
・同じことを何度も言う
・話が発散して結局何が言いたいのかわからない
という話すというスキルの不足があり、さらには
・指示内容をきちんと理解せず、誤った作業を行う
・出張先などでの情報収集のポイントがずれる、そもそも情報を取れていない
という聴く力にも課題があります。
技術者が専門を学ぶために知識を習得することは重要です。しかしそれに時間を使いすぎる故に、基本的な文章作成力が醸成されにくいのです。文章作成力については過去にも述べていますので、そちらも合わせてご覧ください。
今日のコラムではグローバル化に向け、技術者にとって重要なスキルをご紹介しました。数学・数字と文章作成力、というスキルが最重要というのは、意外な盲点だったかもしれません。しかし冷静に考えるとごく当たり前のことだということもお気づきになるかと思います。
情報化技術の進化により情報が氾濫する昨今だからこそ、物事の本質をシンプルにみるという俯瞰的視点が重要になります。若手技術者、指導者の方にとってご参考になれば幸いです。
◆吉田州一郎(よしだしゅういちろう)
FRP Consultant 株式会社 代表取締役社長、福井大学非常勤講師。FRP(繊維強化プラスチック)を用いた製品の技術的課題解決、該関連業界への参入を検討、ならびに該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルティング企業代表。現在も国内外の研究開発最前線で先導、指示するなど、評論家ではない実践力を重視。複数の海外ジャーナルにFull paperを掲載させた高い専門性に裏付けられた技術サポートには定評がある。