産業用ロボットを巡る 光と影(19)

慢心した日本のロボットメーカーに未来はあるか!?

3DCADの基本も分からず顧客の要望に応えられない

過去の私の記事では、日本のロボットメーカー(以下、メーカー)を褒める内容が多かったため、今回は影の話をしたいと思います。

弊社は産業用ロボットのティーチングソフトを販売・サポートしている関係で、ロボットメーカーの営業や技術の方々とやり取りがございます。

その時に、その方々が『3DのCAD(3DCAD)』の基本も分からない事、それでいて慢心した態度を取られる事が多くあるので、その実態を記載します。以下、生々しい実態に気分を害されるかもしれませんが、日本のロボットメーカーの将来を憂えての事ですのでご勘弁ください。

基本中の基本も知らない

先日、ある富山県の会社が、弊社のソフトを導入されました。導入の目的は、溶接ロボットや切断ロボットのティーチングの工数削減です。さらに、この会社の溶接は製品の奥まった箇所が多いため、「『溶接のロボット』と『製品』との干渉のチェックもソフトで行いたい」という事でした。

実はここ数年で、中小企業の3DCADの普及率が格段に上がった事で、ロボットを導入される際に、「せっかくCADデータが有るのだから、そのデータを使用してロボットの導入を楽にしたい」という企業が急増しています。

弊社のソフトは、そのようなご要望にお応えする事を得意としているだけでなく、ロボットにティーチングで重要な3つのチェック『干渉』『特異点』『各軸のリミット』も簡単にできる事を得意としています。あとは、お客さまからは『製品』のCADデータ、ロボットメーカーからは『トーチ』のCADデータをご提供いただければ、ロボットの初心者でも簡単にできます。

よって、弊社はこの会社に溶接ロボットを卸したロボットメーカーに「トーチのCADが欲しいです。干渉のチェックをしたいので、ソリッドでお願いします」とお願いしました。ところが、『ソリッド』ではなく『サーフェース』でデータを送られてきたのでした。

ちなみに、CADには『ワイヤーフレーム』『サーフェース』『ソリッド』の3種類があります。これは基本中の基本で、この違いが分からない事は、車を運転するのに『ブレーキ』と『アクセル』の違いが分からない事と同じです。詳細は割愛いたしますが、『サーフェース』ではお客さまは干渉チェックができません。

もちろん、弊社はロボットメーカーに「欲しいのは『サーフェース』ではなく『ソリッド』です」と何度もお願いしましたが、なかなか返答が返ってこない、もしくは再度サーフェースが送られてくる始末でした。仕方なく弊社が直接トーチメーカーにわざわざ赴いて事情を説明し、ようやく『ソリッド』を頂きました。「なぜ初めからメーカーではなく、トーチメーカーにお願いしなかったのか?」と思われるかもしれませんが、ロボットメーカーが、ロボットとトーチをセットでお客さまに卸しているため、商流の上でロボットメーカーにお願いするのが筋だったのです。

結局、このような無駄なやり取りで時間を取られてしまい。お客さまを約2カ月間お待たせし大変な御迷惑をおかけしてしまいました。よって、このお客さまはロボットメーカーの怠慢な態度に憤慨され「富士ロボットさんは信頼できるが、このロボットメーカーは信頼できない」と言われる程でした。

大慢心の態度

さて、ここで問題なのは、ロボットメーカーの方が初めから「すみません。CADがよく分からないので教えてください」と真摯に速やかに対応していただければ、お客さまをお待たせするのが1~2日もかからなかったはずという事です。

しかし、そのロボットメーカーの方は、私と会っても対応の遅れを詫びるどころか腕を組んでふて腐れた態度で「おたくが自分で用意すればよいのでは?」と投げやりな事を言う始末でした。このような対応は、お客さまのためにできる限りの努力をする事が当たり前の弊社にはまったく理解はできませんでした。

また、この技術者の上に立つ営業の方にも、交渉をしましたが、1カ月後にようやくきたメールには「これ以上の対応につきましては、有償対応となります」と記載されていました。何も対応していないのに『これ以上の対応』とは理解に苦しみます。ひとつハッキリ言える事は、彼らの「よく分からないCADの事に関わりたくない。学ぶつもりもない」という考え方が態度ににじみ出ていたという事です。

大半が同様の態度

ロボットメーカーの中で、このような態度の方々が1人や2人であれば問題ないのですが、真摯な態度の方々が圧倒的に少ないのが現状です。

先日も、ロボットを初めて導入される愛知県のお客さまから「富士ロボットさんは信頼できると噂を聞いたので、お勧めのロボットメーカーを教えてください」とご質問があったので、お客さまのご要望をヒアリングして、あるメーカーをご紹介いたしました。そして、お客さまはそのメーカーに「富士ロボットさんの紹介で、ロボットを購入したい」を伝えてくださいました。

ところが、ロボットメーカーの担当の課長から、弊社にお礼の一言もありません。さらに驚いたのが、そのロボットメーカー課長代理と私が電話でお話しすると、『タメ口』で話されるだけでなく「御社は、販売店やSIじゃないんだからー」と小馬鹿にしてきました。つまり「ロボットを購入しないソフト会社に、失礼な態度をとって何が悪い」という考え方のようです。

海外のメーカーと比べると

ちなみに海外のロボットメーカーは、そのメーカー自体がCADなどのソフトに強いだけでなく、他のソフト会社から『謙虚に学ぶ』姿勢も強いです。偉ぶった態度はまったくなく、とても真摯で腰が低いです。理由は、『ハードだけの能力では限界がある事』『ソフト会社との連携がお客さまのためになる事』を彼らはよく知っているからです。

日本のメーカーは、このままお客さまが求めている事に謙虚に耳を傾けないと、どのような未来が待っているのか、お世辞にも良い未来とは言えないと思います。その上、もし海外のメーカーが日本に本格的に参入したら、その未来は火を見るより明らかです。海外のメーカーは、ロボット自体の性能でも日本より優れているからです。

最後に、前述のような慢心の方々が多い中にも、弊社に協力的な方もいらっしゃる事を一言付け加えさせて頂きます。また今後、そのような協力的な方々が増えていき、共に手を取り合う事ができれば、多くのお客さまが喜ばせる事ができると確信いたします。

◆山下夏樹
やましたなつき。1973年生まれ。富士ロボット株式会社(http://www.fuji-robot.com)代表取締役。産業用ロボットコンサルタント。サーボモータ6つを使って1からロボットを作成した経歴を持つ。自社のオフラインティーチングソフトでさまざまな現場で産業用ロボットのティーチング工数を10分の1にするなど、生産効率UPを実現してきた。さまざまな現場での問題解決の方法を知る、産業用ロボットの導入のプロ。コンサルタントは「とりあえず無償相談から」の窓口を設けている。

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