IPGフォトニクスジャパン、加工用レーザーの最新トレンド解説(下)

切断・溶接だけでない「ファイバーレーザー」

レーザー技術は、既存の機械的な加工ではできなかった超精密加工や加工時間の短縮を実現し、加工技術に大きな変革をもたらした。いま、その加工用レーザーもCO2レーザー、YAGレーザーを超える「ファイバーレーザー」が世界を席巻し、新たな価値を生み出している。

ファイバーレーザーの世界トップメーカー・IPGフォトニクスジャパン(横浜市港北区)の菊地淳史取締役に、レーザー業界の最新トレンドを解説してもらった。最終回となる今回は、ファイバーレーザーのアプリケーションを中心に紹介する。

IPGフォトニクスジャパン取締役 菊地淳史氏

 

小型・高効率 市場50%占拠

ファイバーレーザーは高出力レーザーを小型かつ高効率で発生でき、2018年の世界のレーザー加工市場26億ドルのうちファイバーレーザーが50%を占めるまでに成長。金属加工におけるレーザーのスタンダードになりつつある。

特に、低出力のレーザー光を並列に結合することで容易に高出力化でき、低出力から高出力まで自在にレーザー出力を調整できることから、さまざまなアプリケーションで利用が広がっている。

 

「良コスパ」で置き換え進む

古くからレーザー加工が使われてきた溶接や切断用途では、加工品質とコストパフォーマンスの良さによってYAGレーザーやCO2レーザーからファイバーレーザーへと置き換えが進んでいる。

ファイバーレーザーの場合、高出力化によって短い加工時間で作業が完了し、そのため1件あたりの納期を短くでき、受注件数の増加に柔軟に対応できるようになる。さらに、装置の稼働時間が短いので電力消費が少なく、機構がシンプルなので故障も少ない。

装置も他の方式に比べて小型なので、設置で現場を圧迫することもなく、小スペースで済む。小さなランニングコストで多くの案件をこなすことができることから効率の良い装置として評価され、採用が進んでいる。

 

マーキング・剥離など活躍

表面処理でもファイバーレーザーが活躍中。出力を柔軟に設計できるので、一般的なマーキング用途はもちろんのこと、付着物を表面から除去する剥離・クリーニング用途、ワーク表面の状態を変化させる表面改質などで広く使われている。

例えば剥離・クリーニングでは、ワーク表面に発生したサビ、付着した塗料や膜、異物に対して強いレーザー光を当てて昇華して除去する。サビ落としや塗料の剥離を、ポリッシャーなど機械的で行うと時間がかかる上、均一に落とし切るのは大変。作業者の技量によってムラになることもある。薬液を使った除去の場合、廃棄物の後処理が大変。それをファイバーレーザーで代替している。

具体的には、めっき処理をする前のワーク表面についたシリコンの除去や、空港での飛行機の機体整備で、機体に付着した塩分や汚れの除去などで使われている。

表面改質の用途でも、レーザー光を当てて表面粗さを出すことで塗料や接着剤の乗りをよくし、塗布品質の向上と薬剤の使用量削減などで効果を上げている。

 

既存の生産のあり方を覆す

自動車業界と鋼材業界では早くから導入が進んだが、ここに来てファイバーレーザーの特長を生かし、既存の生産のあり方を覆すような先進的な利用方法が開発されてきている。

ある自動車メーカーでは、ロール状の鋼板を流しながらプレス機で高速で打ち抜くブランキング加工に、プレス機の代わりにファイバーレーザーを採用した「レーザーブランキング」を行っている。毎分120メートルで流れる鋼板の上をレーザーヘッドが高速に動いて型通りに切り抜く。金型レスの新工法で装置も簡略化できたという。

マフラーや車体の配管パイプを作るハイドロフォーミングに対しても、円筒状の曲面への正確な穴あけや切断、高張力鋼で加工がしにくいハイテン材への溝掘りやマーキングにも使われている。またレーザー光が当たった箇所に熱が発生することから、自動車部品メーカーでは強度向上や長寿命化のための焼入れに使われているケースもある。

 

土木建設用の鉄骨を製造する鋼材業界では、通常の溶接に加え、開先加工と肉盛りにもファイバーレーザーが使われている。開先加工は母材の溶接箇所を斜めに研いでおく加工で、これまでは専用の開先加工機で機械的に行っていた。

また肉盛り加工は自動化が難しいとされ、多くは手溶接で行われていた。これらの作業も、現在ではファイバーレーザーで代替されるケースが増えてきている。

また特殊用途として、解体作業でもファイバーレーザーが活躍中。近づけない場所に対し、離れた場所からレーザーを照射しての切断も可能。銅やアルミ、真鍮など非鉄金属では切断スピードも早く、効果的だ。

 

世界でトップ 日本でも普及を

IPGフォトニクスは、ファイバーレーザー世界トップメーカーの一社で、「ファイバーレーザーを工具のように普及させる」ことを社是としている。これまで世界500社以上の顧客に対し、2万1000台以上の高出力レーザー製品を提供してきた実績があり、さまざまなアプリケーションを開発してきた。日本でももっと普及を進めたいとしている。

日本市場は品質への要求が高く、特に溶接に関しては品質を上げるアプリケーションとして溶接モニタリングシステムを提案している。溶接の品質は、これまで加工時の出力や加工現象(反射光やプラズマ光)で加工状態を管理し、抜取り検査でワークを切って断面を見ないと分からなかった。それに対し同社では、溶接の深さと幅、高さをOCT技術で見てトレースしてモニタリングすることで、インラインでリアルタイムに加工状態を把握できるソリューションを提供している。

菊地氏は「ファイバーレーザーは非破壊で溶接状態を管理でき、品質向上にも大いに役立つ。こうした特長も訴えながら日本での普及に取り組んでいきたい」と意気込みを示している。

溶接モニタリングシステムの原理
実際のモニタリング画像

 

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参考:IPGフォトニクスジャパン

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