「2番行ってきます」「シルバー補充しといて」「兄貴から使って」。レストラン等でアルバイトをしたことがある人ならすぐピンと来る言葉。これらは飲食業界内で有名な業界用語、いわゆる隠語だ。
2番はトイレ、シルバーはナイフやフォークなどのカトラリー、兄貴は古い食材のことを指す。高校生で初めてアルバイトをした時、これらの意味不明な言葉が店内を飛び交い、慣れるまで困惑したのはいい思い出だ。
製造業にも業界内用語、隠語はたくさんあるが、厄介なのが、他の業界だと別の意味になる言葉だ。
例えば「KY(ケーワイ)」。製造業では、危険(K)を予知(Y)して回避することを指し、現場の安全衛生を守る言葉として広く使われている。しかし10年ほど前、若者言葉として「K(空気)Y(読めない)」が大流行し、KYと言えばこっちを想像する人が多い。
また、ニュース等でよく見かける「IPO」。多くの場合、金融用語として「Initial Public Offering」、新規公開株式や新規上場の意味で使われている。しかし製造業や国際貿易では、IPOといえば国際調達拠点(International Procurement Office)として使われることがある。
同音異義語は、使う場所と相手、言葉の意味を意識しておかないと、思わぬ誤解を生む可能性がある。
第4次産業革命によって、製造業を含めて社会・産業全体で「つながる」がキーワードになっている。つながるためには、一部でしか通用しない隠語や専門用語、曖昧な言葉は障害になる。言葉の意味を明確にし、できるだけオープンに標準化して減らしていくことが大切だ。
また日本には、他の言語との整合性がとれていない、和製英語のような特有の言葉も多く使われている。今後、日本がものづくりの仕組みで世界標準を目指す、グローバル規格に合わせて世界市場で戦うためには、これも無視はできない。
日本の製造業には「言葉の壁」が多く存在する。つながる時代が本格的に到来する前に、再定義して整理することが大切だ。