元号が変わり、誰しもが明るい未来に期待を寄せているが、消費税増税や米中貿易戦争もあり、決して予断を許さない経済予測が囁(ささや)かれ始めている。中小製造業の経営者も、肌感覚で多少の危険信号を感じているようである。昨年まで、好況感に満ちあふれていた精密板金業界でも、最近では先行き警戒心を覚える経営者が急増している。
7月31日~8月3日まで東京ビッグサイトで開催されたプレス・板金・フォーミング展(MF-TOKYO)は、過去最高の出展社数と来場者数でにぎわうはずであったが、予想に反し、前回より来場者数が減少した。景気のピークを超えた証拠かもしれない。消費税増税、オリンピック、米中貿易戦争、円高などを発端に、令和時代の経済危機はいつ・どの規模でやってくるのだろうか?
マクロ的な視点から、日本経済を取り巻く環境を分析し、日本の政治体制や米国を中心とした国際情勢を精査すると、確かに日本に危険な状況が迫っている事に気がつく。
米国トランプ政権は、反グローバル主義を政策に据え『アメリカ第一主義』を推進する保護主義政策を実行している。自国第一主義の流れは、EUを離脱する英国とも通じるものがあり、欧州各国でも反グローバル主義が台頭しており、グローバル主義VS反グローバル主義の対立構造が令和の時代の国際環境といっても過言ではない。
しかし、わが国日本では、反グローバル主義には極めて鈍重である。与党も野党もグローバル主義を前提としており、トランプ氏に代表される反グローバル・保護主義を政策に掲げる政党はほとんど存在せず、日本では『日本第一主義』への芽吹きは小さく、本格的な議論すらない。
令和の時代を迎えた今日、米国を中心とした反グローバル主義の台頭により、自由主義諸国の間でも各国の思惑が衝突し、ぶつかりあっている。トランプ政権はとにかく国益第一優先で、中国との覇権争いを表面化させ、米中貿易戦争を仕掛け、移民を制限して国内の労働者を守り、ホルムズ海峡の防衛を各国に迫り、日米安保条約の解消を示唆するなど、新時代の保護主義に向かっているが、この米国の動きを『トランプの横暴』などと単に批判的に報じる日本メディアは少し短絡すぎではないだろうか?
グローバル主義が後退し、その次に来るのは、各国の強い政治主導による国策優先である。強い政府が自国の利益のために大きな力を発揮していく時代が、令和時代の国際社会である。極論ではあるが、日本の政権が強い力を持って『日本第一主義』を掲げ、巨額な財政出動を実施し、大手企業の日本への製造回帰を徹底する政治を断行すれば、日本の経済力は急回復し、輝かしい令和の時代を夢見ることも可能かもしれない。
しかし、残念なことに、今日の日本の政治主導力は弱く、財政均衡などを錦の御旗として、消費税増税や緊縮財政などに頼っていては、やがて令和の大不況が到来しても、何ら不思議はない。どんな厳しい大不況が来ようとも、製造業にとってそれを乗り切る万能薬は『生産性の向上』である。好不況とは需要と供給のバランスで生じるが、中小製造業にとってどんな好景気がやって来ても生産性が低くては仕事はやって来ない。
また、どんな不況が来ようとも生産性の高い工場に仕事が集中する事は歴史が証明している。中小製造業にとって唯一の不況対策は『生産性向上』である。
日本の中小製造業は、戦後の高度成長時代より飛躍的な生産性向上を果たしてきた。機械化による生産性向上、5Sの徹底による生産性向上、自動化による生産性向上など、世界に先駆けたものづくり先進国として世界のお手本となってきたが、残念なことに、日本の労働生産性は世界20位と先進国最下位である。
日本の中小製造業では、NC化や自動化の進んだ製造現場を維持するために、生産管理やCAD/CAMなどたくさんのコンピュータが整備され、多くの事務員やエンジニアがコンピュータを使って作業をしているのがごく普通の姿である。しかし、多品種少量生産や短納期化が極端に進んだ結果、事務員やエンジニアに仕事が集中し、生産性を大きく下げている事は、よく知られている事実である。事務員やエンジニアの生産性向上の課題は、以前より強く認識されていたが、最近になってこの生産性を大幅に向上させる特効薬が誕生したのをご存じだろうか?
その名は、『RPA』(ロボテック・プロセス・オートメーション)ソフトロボットである。RPAは、平成後期に世の中に登場し、銀行・保険会社・大企業メーカーや一部の地方自治体などで爆発的に普及が進んでいる最強武器である。何がすごいのか? 一言で言えば、『人に代わってコンピュータ操作や処理を自動で行ってくれるアシスタント』である。RPAの導入で、人々は煩雑で単純なコンピュータ作業から開放され、事務業務の大幅な生産性向上を実現する夢のツールである。
ロボットと聞くと、一般的には産業用ロボットやアイボなどハード的なイメージを思い浮かべるが、ソフトロボットはコンピュータ内に常駐する目に見えないロボットである。
RPAは巷(ちまた)で大きな話題となっており、その効果も実証されているが、中小製造業への本格的導入はまだ始まっていない。MF-TOKYOの会場においても、RPAを本格的に出展していた企業は(私の知る限り)なく、中小製造業への普及促進はこれからである。しかし、中小製造業の生産性向上の切り札は、RPAの活用にあることは明白であり、令和の時代の不況対策はRPAの導入なくして語ることはできない。
次回より、RPAの具体的導入とその成功事例をご紹介する。
◆高木俊郎(たかぎ・としお)
株式会社アルファTKG社長。1953年長野市生まれ。2014年3月までアマダ専務取締役。電気通信大学時代からアジアを中心に海外を訪問して見聞を広め、77年にアマダ入社後も海外販売本部長や欧米の海外子会社の社長を務めながら、グローバルな観点から日本および世界の製造業を見てきた。