熱・地震・セキュリティ技術的ポイントが強化
電気、電子機器収納用のボックス・キャビネット・ラック・ケースなどの筐体機器は、社会インフラ整備を背景に、東京オリンピック・パラリンピック、大都市再開発、リニア中央新幹線関連などの投資拡大で、商業施設・ビル・ホテルの建設、交通インフラの整備関連で需要が拡大しており、加えてIoT、5Gや自動車の「CASE」への対応といった通信・情報関連投資でデータセンターをはじめとした投資の恩恵も受けている。
ハード面では、屋内や屋外で使用されることで、環境との調和や内部機器を外部環境から守るなどのほか、人の安全確保など高い信頼性が要求されている。
近年、内部収納機器や設置環境が多種多様になっており、熱対策、地震対策、軽量化、省施工、防じん・防水性、セキュリティへのニーズも高い。
国際標準化への対応も進展
ボックス・キャビネット・ラック・ケースなどの筐体機器の材質は、大別すると金属製とプラスチック製があり、特にプラスチック製のプラボックスは、金属製キャビネット・ボックスに比べ、電波透過性に優れているため、ブロードバンド用通信機器・無線LANアクセスポイントや、再生可能エネルギー発電設備、商業施設などを防犯・監視する監視カメラシステムなどの収納が可能で需要が増えている。
技術的なポイントである地震対策では、耐震・免震などが強化されている。耐震は容易な地震対策の一つで、地震の揺れに耐え、構造物の倒壊を防ぐ。耐震対策を施したラックは強固で倒壊する心配はないが、地震時の機器への負担が一般的に大きくなり、機能保護には対応していない。免震は構造物と設置面の間にベアリングやすべり材を設置し、構造物に直接揺れを伝えないという特徴を持つ。
筐体内の温度上昇は、内蔵の電子機器・装置の寿命を短くするばかりでなく誤動作を引き起こす原因になっており、温度上昇によるトラブルを未然に防ぐルーバー、熱交換器、ファン、クーラーなどの熱対策機器が不可欠となる。これらの熱対策機器はそれぞれに特徴があり、用途に応じて使い分けされている。
中でもデータセンターは、サーバーやスイッチングハブなどの通信機器からの排熱が多いことから、収納ラック・キャビネット内は非常に高温になることから、筐体だけでなく、室内全体の温度管理を行っている。昨今の電子機器からの放熱は高温傾向であることから、水冷式の採用も増えている。また、単に冷却するだけでなく、吸気・排気の方法を工夫することで、効率的な熱対策による省エネ化を進める取り組みも著しい。
市場のグローバル化が進む中で、筐体の国際標準化対応も求められてきている。
制御盤などは機械装置などと一体で輸出され、また海外生産が増加するなかで、生産設備や工場全体が国際標準に合わせた対応が必要になっている。
筐体も、UL、TUV、CEマーキングといった規格に対応してきており、例えばULのUL50、UL50Eでは、難燃性・防食性・結氷・防塵防水性などの性能が要求され、使用環境に合わせた厳しい性能評価を行う必要がある。米国では、耐震試験・静荷重試験・環境試験によって情報通信設備を評価しており、NEBS規格が重要な評価基準の一つとなっている。
また、品質対策では、コンセプト設計の段階から、工学的手法による解析をコンピュータで支援するCAE解析などの最新の設計ツールを使い、世界基準、業界標準となりえる高性能・高機能の製品設計を行う必要がある。こうして開発された製品は多様な試験・研究設備による検証でさらに高い品質・安全性が確保される。
省人・省工数化へCADと連携
強度解析は、キャビネットの強度を評価、熱解析ではキャビネット内部の温度を評価する。流体解析では強風によりキャビネットに加わる圧力と周囲の気流状態を評価する。
短絡性能評価とは、短絡事故時に流れる大電力を模擬し、ブレーカの遮断性能や配電盤の電路への影響を確認する試験。配電系統で短絡や地絡事故が発生した場合、ブレーカで電路を保護し、他の電路に事故が波及しないようにする必要があるため、短絡性能が評価される。
防塵性能評価とは、IEC60529に規定されているエンクロージャ(外郭)の防塵性を確認する試験。キャビネットが受ける塵埃の影響を模擬し、内部に搭載した機器の動作を阻害するような塵埃の侵入がないことを確認する。
防水性能評価とは、IEC60529に規定されているエンクロージャ(外郭)の防水性を確認する試験。キャビネットは使用環境によってさまざまな浸水リスクにさらされるので、防水試験ではキャビネットが受ける水の影響を模擬し、内部に搭載した機器に対して有害な水の浸入がないことを確認する。
その他、①低温・高温・高湿など、さまざまな環境を作り出し、製品性能の評価を行う環境試験②急激な温度変化を繰り返し、製品の耐久性の評価を行うヒートショック試験③塩水が噴霧されている槽内に試験片を設置して腐食の評価を行う塩水噴霧試験④塩水噴霧・乾燥・湿潤の各工程を繰り返し、屋外の環境に近い状況で腐食の評価を行う複合サイクル試験⑤紫外線を照射し、樹脂材料の劣化の評価を行う促進耐候性試験-などで各メーカーは品質の向上に努めている。
産業界全体で人手不足が続く中で、筐体の設計・加工においても対応策が進んでいる。コンピュータシステムと連携し、筐体の折り曲げ、穴加工などを自動化することは一般化しつつある。また、制御盤などの内蔵される機器が多種多様で数量も多いところでは、筐体の設計から内蔵機器の選択までをCADを駆使した取り組みが増えている。内蔵する機器の選択にあたっては、CADメーカーの用意した部品ライブラリーをクラウド上で活用できる提案も行われ、配線用ケーブルの加工作業指示も可能なシステムも登場している。同時に内蔵の部品も省人化につながる設計構造にすることで、省力化対策に効果を上げつつある。
HEMSなどへの普及に期待
ボックス・キャビネット・ラック・ケースなどの筐体市場の今後の需要として期待されるのは、鉄道関連のスマートグリッド運用、公共施設における災害時の通信手段の確保や観光情報の配信を目的とする公衆無線LANシステムの設置、燃料電池自動車(FCV)、電気自動車(EV)のEVの充電ステーションや水素充電ステーション設置時におけるボックス・キャビネット、宅配業界における再配達の手間を省く手段として注目されている事業所、戸建て、集合住宅向けの宅配ロッカー・宅配ラック・宅配ボックスなどがある。
IoT、AI、ロボットなどが浸透する中、IT機器、インターネット、LAN、CATVなどに用いられる通信機器を収納するためのシステムラックがデータセンター・サーバルームなどで大量に導入が進んでいる。
HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)と連携して家中のエネルギーの「見える化」を進める通信計測ユニット用のボックス、地震時の防災機能を高めた感震リレー付ホーム分電盤関連のボックスも注目されている。新築住宅や既存の住宅にも設置できるさまざまなタイプが用意され、一般家庭にも普及が進むと見られる。
ボックス・ラック・キャビネットはこのように分電盤、制御盤、弱電機器収納など使用目的が幅広く、一般家屋、学校、オフィス、工場、病院、屋外の監視カメラ、移動体通信機器収納設備などさまざまな環境に設置される必要不可欠なものである。今後も市場の拡大が見込まれる。