スリーエムが進める工程効率化・生産性向上への提案
研磨とは研磨材を使ってワーク表面を削り取る加工で、金属や樹脂、木材ほかあらゆる産業に必ず存在する。しかし切削や穴あけ、溶接や塗装といったメイン加工とは異なり、研磨はメイン加工の前処理と後処理を担うサブ加工としての立ち位置。サブであるが故にムダや非効率が見逃されがちで、自動化がなかなか進まず、改善に取り組む余地が多く残っているのが実情だ。
それに対しスリーエムはパートナー企業と協力し、研磨作業のロボット化をはじめ、工程の最適化と品質改善、生産性向上の提案を強化している。
100年超える歴史と実績
3Mはもともと研磨材から創業し、研磨材のあらゆる製品ポートフォリオを提供している研磨材の世界トップメーカーだ。主力製品として、不織布に研磨砥粒を塗布・接着した「スコッチ・ブライト」、精密成型砥粒で均一で鋭利な砥粒を持ち、一定量使い込んだら角が欠けて鋭い切っ先が出て、常に安定した研磨力を発揮できる「キュービトロンⅡ」、規則正しいピラミッド状の立体パターンを持つ「トライザクト」があり、これらを手研磨用の紙やすりやパッド、グラインダー用のディスク、研磨機用のベルト等へと展開している。
研磨材製品事業部マーケティング部安藤太一マネジャーは「当社は100年以上、研磨材ビジネスに携わり、紙やすりから液体研磨材まで総合的に扱っている。1921年の耐水研磨材のヒットが今のビジネスの土台となるなど、研磨材ビジネスは当社にとって特別だ。技術的にも優れており、キュービトロンⅡは、砥粒の鋭さから研磨していても熱が発生しにくく、ワークに焼けや熱ダメージを与えづらい。他社同等品に比べて研削量は3倍、寿命は8倍という実験結果が出ている。これを使えば発熱が少なく、スピード早く、時間は短く加工を終了させることができる」という。
パートナー企業と協業
研磨材の提供に加え、近年強化しているのが研磨工程の効率化や改善提案。特に力を入れているのが「研磨作業の自動化、ロボット化」だ。
研磨作業は力仕事で作業者への負担が大きい上、熟練者と若手との技術の差が出やすい。そのためユーザー側から研磨作業をロボット化したいという要望が増えてきているという。
「研磨は、研磨材の粒度と押し付ける力、動かすスピードの3要素で成り立っている。対象となるワークと目的に合わせ、これら3つの要素を調整し、最適な研磨材と力、スピードのバランスを見極められることが当社の最大の強みだ。現場を見て、お客さまの状況を聞いて最適なプロセスを提案する。作業すべてを一律にロボットに変えるのではなく、一部だけロボット化したり、作業方法や工程を改善するなどの柔軟な方針で対応している」(安藤氏)
他産業にも広げていく
とは言え、同社は研磨材メーカー。ロボット化、自動化についてはロボットシステムインテグレーター(ロボットSI)や研磨機メーカー等のパートナー企業やクライアントと協業して進めている。
2018年12月には溶接分野の自動化を得意とするロボットSIの愛知産業と協業を開始。溶接後のビードや酸化膜の除去に対し、愛知産業のロボット用倣い制御機能付きグラインダ「AKグラインダ」に同社の研磨材を合わせることで自動研磨ロボットを実現した。3Mの研磨の知見と、愛知産業の溶接とロボットの技術のコラボレーションが可能にした。
また研磨機メーカーのシケンと協力し、金属ワークの表面仕上げ研磨機や、高級カトラリー製造のトーダイでは熟練技術者の技術継承をロボットで行うなど、鉄鋼や金属加工、溶接等の研磨自動化を中心に取り組んでいる。
安藤氏は「人の手作業と機械研磨では最適な研磨材は異なり、それこそ研磨材のノウハウが必要だ。研磨作業の効率化は、ロボットメーカーやロボットSIだけではできない。彼らと協力して研磨作業の効率化を進めていく。また、研磨工程はどの産業にも必ずある。まずは金属加工を中心に取り組み、他の研磨作業にも広げていきたい」としている。